彼が吸血鬼になるまでの (ページ44)

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むりょくページ44

しーんとなんの音沙汰もない屋敷の扉に額をぶつける。

どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。

フェリドはクローリーを殺させる気はないだろう。でも、それ以外の人間に関しては興味がない。

全員死んでしまう。そして、クローリーはとても悲しむ。

なにが起こるのか分かっているのになにも出来ない自分の無力さに、「ううう」と呻く。

しばらく屋敷の前で拳を握りしめていたが、それも現実逃避の意味のない行動だと気づいて屋敷に背を向ける。

歩いて、家まで戻る。そのうちに日はすっかり登りきっていた。今日はよく晴れて、綺麗な青空だ。

…クローリーも、今ごろこの空を見ているのかな。

寝たら夢を見れるだろうかと考えて、やめた。

もしすでにヴィクターたちが死んでしまっていたら、耐えられる気がしなかった。

家に帰ると、勝手に家を飛び出したことについて使用人たちに叱られた。

そうして今日もいつも通り、クローリーのいない家を綺麗に保つために家事をするのだ。

結局私にはなにもできなくて、時間だけが過ぎていき、いつの間にか夜がきた。

ベッドに横になって、今日はどんな夢だろうと考える。

もしかしたら、私の記憶とは違った流れを辿っているかもしれない。
ヴィクターが生きていて、やっと安心して寝れるとクローリーたちと笑い合っているかもしれない。

そうだったらいいなと考えて、私は眠りについた。

その日の夢は、今までで一番の悪夢だった。

クローリーは久しぶりの寝床にありつけていた。
久しぶりに水も飲めて、体も綺麗に拭いている。

けれど、一人で泣いていた。

ずっとそばにいた人がいない。ヴィクターも、他の先輩騎士も、クローリーと仲の良かった人は皆いなくなっていた。

生き残っている騎士はいるし、城壁の中で合流したのだろう。人数も増えていた。

けれど、クローリーは一人だった。

疲れているはずなのに、一人でずっと泣いている。
ヴィクターや、隊長、他の仲間の名前を呼びながら、ずっとずっと、涙を流し続けていた。

その光景があまりにも痛々しくて、私も泣いた。

寝てる間も、起きてからも、誰にも見せなかったクローリーの悲痛な姿が目蓋の裏に張り付いて、離れない。

クローリーが戦争から帰ってくるその時まで、私はその光景を思い出しては涙を流し続けた。