彼が吸血鬼になるまでの (ページ42)

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てったいページ42

クローリーが戦争に行ってから数ヶ月。

毎日見る夢のおかげと言っていいのか、私は戦争の状況をリアルタイムで知る事ができた。

最初のうちは、不安な心が見せるただの夢だと思っていたのだが、夢で見た光景と街に届く戦争の近況が常にシンクロしていて、今ではこの夢が実際に起きている出来事なのだと確信している。

戦争は、最初のうちは順調に勝ち進んでいたらしい。

しかし敵の本拠地を陥落させ、何度も和睦の申し入れがあったにも関わらず、戦争の指揮を取っている上の人間が欲をかいて、まだ、まだいけると戦争を続行させてしまったのだ。

夢の中でも、日に日に殺される仲間の数が増えてきたのが目に見えて分かった。

地面に転がる死体は、黒い肌をした異教徒たちよりもテンプル騎士の制服を着た者たちの方が圧倒的に多くなっている。

私はそんな光景を見るたびに、何度も「もうやめてくれ」「もう撤退してくれ」と叫んだ。
しかしそんな声は届かず、死ななくていい人たちが次々に斬られていった。

中には出征前のあの夜に顔を見たり、喋ったことのある人もいて、これが戦争なのだと嫌でも理解した。

そして今日、ついに隊長が斬られてしまった。

胴体に大きな傷を負っていて、一目で助からないと分かる。
周りにいる騎士たちは皆泣いていた。

クローリーも、声を押し殺して、ぼろぼろと涙を溢していた。

毎日戦争の光景を見ていて、隊長が何度も仲間を鼓舞し、救ってきたのを知っている。

きっといい隊長だったのだろう。皆に慕われていて、誰もがその人の死を悲しんだ。

私も、すでに無意味になった戦争でこんなに素晴らしい人があっけなく死んでしまう理不尽に涙を流した。

それでも、どんなに悲しくても戦争は終わらない。

息絶えた隊長の死体の前で静かに涙を流していたクローリーが、数秒の間に悲しみを振り切って、顔を上げ、その場にいる騎士に隊長の最後の命令を下した。

撤退だ。

ようやく戦争が終わりに向かっていくんだと安心したのも束の間、それがどんなに無茶な命令なのかに気づいて私は息を呑んだ。

逃げても逃げても、こちらの何倍もの数の敵がすぐに追ってきて、そのたびに仲間が何人も殺される。

普通に考えて、全員を生きて帰すのは無理だ。

それでもまだ、クローリーもヴィクターも、命を落としてはいなかった。