彼が吸血鬼になるまでの (ページ37)

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ざわざわページ37

長いキスが終わった後も、二人は見つめ合っていた。

ヴィクターが赤い顔で嬉しそうに笑っている。側から見ていたら、完璧な恋人同士だ。

胸が、ざわざわする。

酒で胸焼けでもしたかな？

いつの間にか手をきつく握りしめていた事に気づき、慌てて力を緩める。

なんだろう、どうにも落ち着かない。

なにをする事もなく、ただじっと二人が並ぶ様子を遠くから見ていると、不意にヴィクターの視線がこちらに向いた。

しまった、と思った時にはもう遅く、ヴィクターはにやりと笑うとAに手でこちらを指し示している。

Aがこちらを振り向く。目を見開いて、ヴィクターに礼をしてから顔を真っ赤にしてこちらに走ってきた。

「あの、あの、クローリー様、いつから…！？」

「ごめん、君たちが食堂から出てきたところから、全部見た」

僕がそういうと、Aはぱくぱくと口を開け閉めして、目を見開いている。

自分でも無粋な真似をした自覚はある。悪いことをしてしまった。

「まさか、ヴィクターとそんな関係になっていたなんて、気づかなかったよ。言ってくれてもいいのに。一体いつから？」

「あの、ちが」

彼女はさーっと顔色を変えて、ぶんぶんと頭を振っているが、さっきの光景はどう見ても恋人同士のそれだった。そんなに僕にバレたくなかったのか。

さっきまで赤かった顔を真っ青にして、涙目の彼女に「もう」と肩を竦める。

「誤魔化さなくていいよ。言いたくないなら、別にいいけど」

「クローリー様、違うんです。私、ヴィクター様とお付き合いはしていません」

「へえ。君、好きでもない男にあんな簡単に抱きしめられたりキスされたりしても平気なのか。思ってたより、慣れてるんだな」

僕が言葉を重ねるごとに、Aの顔が悲壮感に歪んで、体がぷるぷると震えてきた。

どうしてそんな顔をするんだ。
今日はせっかく楽しい日なのに、勝手にここまで来て、僕を変な気持ちにさせてるのは君じゃないか。

「もう戻るよ。君は早く帰りなさい」

「クローリー様、怒ってますか…？」

「なんでそんなこと聞くの？」

「怒ってるように見えたから…」

僕は別に怒っていない。
彼女の気のせいだ。胸がずっとざわざわしているけれど、この感情は怒りではない。