彼が吸血鬼になるまでの (ページ35)

今日:20 hit、昨日:15 hit、合計:91,827 hit

きすページ35

「あ、ヴィクター様…」

「クローリーにも遠慮はしなくていい。イエスと言ってくれ」

なんで、ここでクローリーの名前が出てくるんだろう。
私の知らないところで、二人でなにか話していたのだろうか。

ぐっと力強く抱きしめられ、ヴィクターの心臓の音が近く聞こえる。
今、この人は生きているんだ。急にそれを実感してしまって、目の奥が熱くなるのが分かった。

でも、私は…。

「ごめんなさい、ヴィクター様。私、今日をあなたと過ごす事はできないんです。ごめんなさい…！」

　
耐えきれなくて、ぽろりと涙が溢れた。

もう会えないと分かっているのに、これが本当に最後だと、私は知っているのに。

それでも、首を縦に振る事はできなかった。

「……そうか」

ふっと、ヴィクターの体の力が抜けた。
がっかりさせてしまっただろうか。クローリーの大切な仲間を、私は傷つけてしまったのだろうか。

こんな時でも、それでクローリーに嫌われたくないと思ってしまう自分がいやに浅ましく感じて、ぐっと唇を噛む。

しばらくなにも言えずにじっとしていると、ヴィクターの胸の中で俯いていた顔を、不意に上げられた。

え、と声が出るより先に、口をヴィクターの口で塞がれる。

後頭部を固定され、頭を動かす事ができない。
何秒経ったのか、そろそろ息が苦しくなってきたと思うと同時に、唇を離された。

「仕方ない、無理やりするのは俺の趣味じゃないからな。キスだけで満足しておこう」

「は、なっ……！？？」

至近距離にあるヴィクターの顔がにっと笑ったのを見て、顔に燃えそうなほど熱が集まる。

そんな、不意打ちでやられるなんて！

「初々しい反応だな。初めてというわけでもないだろうに」

「…っっ、～～～！！」

「ん？まさか…」

「初めてだったか？」と聞くヴィクターに、恥ずかしくて答える事もできない。
そんな私の反応を見て確信をしたらしいヴィクターは、上機嫌に笑った。

初めてだったのに！すっごいお酒の味がした…！！

恥ずかしさを誤魔化すため、驚きで涙の引っ込んだ目で、嬉しそうな顔をするヴィクターを思いきり睨みつけた。