彼が吸血鬼になるまでの (ページ34)

今日:27 hit、昨日:15 hit、合計:91,834 hit

さいごはページ34

頭に巻きつけていた布を剥がされるとともに、しまっていた銀髪が食堂の一角を彩った。

この場には、金色や茶色など、色とりどりの髪の人間が大勢いるが、ここまで色素の薄い髪色は一人もいないため、非常に目立つ。

ヴィクターも、その色に思い当たるふしがあったようだ。

「ん…？お前は…」

「お久しぶりです、ヴィクター様。では私はこれで。お邪魔いたしました」

にこっと笑ってそのまま踵を返そうとするが、ガシッと腕を掴まれてしまった。

逃げられませんでした。

「待て、お前、Aで間違いないな？半年前の夜中に出会った…」

「…はい。あの、勝手に入った事は謝りますので、どうかお許しを…」

「場所を移すぞ」

有無を言わさぬ態度に、頭にはてなを浮かべながら大人しく腕を引かれるままについていく。
あれ、怒られるんじゃないのかな？女の子たちも、放っておいていいのだろうか。

外に出ると、中の熱気が高まっていた事もあり、ずいぶんと涼しく感じられた。

酒に酔って、気持ち悪そうにしている者や顔を真っ赤にしている者がそこかしこで夜風を浴びている。

そんな中で、ヴィクターと私は向き直った。ヴィクターの方がずっと身長が高いので、私はかなり見上げる体制になる。

「率直に言おう。俺と寝てくれ」

「へ」

おちゃらけた雰囲気などない、真面目な顔でヴィクターが口を開いた。
それにしても何を言いだすんだろう。酔っているから、気が大きくなっているのだろうか。

「ヴィクター様、お酒を飲みすぎたんじゃありませんか？顔色も悪いです」

「たしかに飲みすぎて気持ち悪いが、これは酒の勢いで言っているんじゃないぞ。一目見た時から、ずっと抱きたいと思っていた」

私の言葉に眉をしかめて、とんでもない発言をしてくれる。
告白…？にしては、体目的だということを前面に押し出しすぎてるような。

「これほど美しい女は今まで見た事がない。明日からはいつ死ぬかもしれない戦場だ。最後に抱くならお前がいい」

「あ…」

覚悟を決めた顔でそういうヴィクターを見て、思い出してしまった。
ヴィクターは、この戦争で命を落とす。
最後の最後、助かると思った瞬間に、吸血鬼に命を奪われるのだ。

　
顔の曇った私を見て何を思ったのか、ヴィクターが私の腰を引き寄せた。