彼が吸血鬼になるまでの (ページ30)

今日:26 hit、昨日:15 hit、合計:91,833 hit

つきひがたちページ30

＊

私がクローリーの家で生活するようになってから、あっという間に半年が過ぎた。

最初の頃は、毎日なにかしらの問題に巻き込まれて大変な思いをしたものだが、一週間も経つ頃には平凡で平和な生活をぬくぬくと送る事ができるようになっていた。

家事の腕も上がり、クローリーに料理を褒めてもらえる回数も増えた。

フェリド・バートリーは、あの井戸での一件以来、一度も姿を見せていない。

当初の約束では、私の住む場所が決まるまでクローリーの家に厄介になるという話だったはずだが、半年が経った今もクローリーからその事について言及される気配はないので、なんとなく今の生活を続ける事を許してくれていると解釈している。

「クローリー様、最近は家に帰ることが少ないですね。前にも増して剣の訓練にも熱心な様子ですし、何かあったんですか？」

「そういえば、言ってなかったっけ」

ひと月ほど前から、クローリーはテンプル騎士団の庁舎で寝泊りするようになった。

前もちょくちょく帰ってこない事はあったが、こんなに長く家を開ける事は今までなかったので、最近の私はとても寂しい思いをしているのだ。

今夜は、珍しくクローリーが帰ってきた。どうやら荷物を取りにきただけで、すぐに行ってしまうらしいが。

この機を逃すかと気になっていた事を聞いてみれば、クローリーはああ、と気がついたようにその問いに答えた。

「近いうちに、戦争に行く。それが終わるまでは、しばらく家を留守にするよ」

「え、戦争って、もしかして十字軍の？」

こくりと頷きを返される。

十字軍の戦争。

まさか、ついにその時が来てしまったのだろうか。

「いつ出発するんですか？」

「十日後だ」

そんなに近いのか。

平和な生活を続けていてすっかり頭から抜けていたが、戦争に行ったら、クローリーはとてつもなく辛く、悲しい思いをする。

そしてその後は、もっと酷い運命が待ち構えているのだ。

救う事は、できないだろうか。

ぐるぐると胸を焦りで埋め尽くしながら、私はクローリーを見送った。