彼が吸血鬼になるまでの (ページ29)

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しょうりページ29

自分より四十センチはデカい、筋肉モリモリの男二人と喧嘩なんて怖すぎる。

なんとか隙を見て逃げられたらいいな。

びくびくしながら相手が動き出すのを待っていれば、二人いっぺんに両手をこちらに向けてタックルしてきた。

勢いは強いけど、なんとかかわす。男たちの死角から横にずれたおかげか、片方の男の脇腹が無防備な状態で目の前にあった。

チャンスだと思い、思いっきりグーで殴ってみる。

すると、想像をはるかに上回る勢いで、殴られた男がもう一人を巻き込みながら地面を跳ねて転がった。

一人は打ち所が悪かったのかなんの反応も見せず、もう一人の方は意識はあるようだが、起き上がれないのか地面に顔をつけたまま呻いている。

…うそ、勝った？

初めて人を殴った拳はじんじんと痛むが、体の方も軽い打撲程度で、これといった怪我はない。

完全勝利だ。まじか。

倒れ伏した三人の男をどうすれば良いのか分からなかったので放置したまま、私はそろりと路地を抜け出して帰路を急いだ。

今回の一件で分かったこと。私、とんでもなく力が強くなっているらしい。

一人で窮地をくぐり抜ける事ができた興奮と、自分の体の謎がまた増えてしまったことへの不安が混じり、とりあえずこの事はクローリーには黙っておこうと心に決めた。