彼が吸血鬼になるまでの (ページ14)

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じんもんページ14

「いくつか聞きたいんだけど」

「…はい」

なになに、怖い怖い！

「君の名前は？」

「Aです」

「家名は？」

まずい。

「わ、忘れました…」

「忘れた？」

きゃああ、クローリーの眉がぴくって動いた！怖い！

「あの、ここに来るまでに大事な記憶が抜けてしまって、住んでいた街の名前や、家の名前すら…。辛うじて、どうしてここにいるのかと、自分の名前だけを覚えているんです」

怪しんでる！この顔は絶対怪しんでる！

でもこっちだって必死だ。嘘じゃないんです、信じてもらえないだろうけど…という気持ちで目を伏せる。長い睫毛が、悲劇のヒロインっぽくなっているんじゃないだろうか。

「へえ…。困っているのは本当みたいだ。どの言葉までを信用していいのかは、分かりかねるけどね」

さすが、人を見る目があるよ、クローリー！困ってるのは本当だけど、言っている事はだいたい嘘だよ！

多少の罪悪感は覚えるけれど、このまま押せばなんとかなりそうな気がする。

「一晩だけでいいんです…朝になったら、次からは自分でなんとかできるようにするので」

「あてがあるの？」

ないです。

でも、なんとかするしかないじゃないか。

「頑張ります」

「現実的じゃないな。君の容姿なら、身売りをすれば寝るところにも食べるものにも困らないとは思うけど」

「そ、それは…！」

できれば全力で避けたい道だ！

ぐっと言葉に詰まると、クローリーもこちらの思いを察してくれたらしい。困った顔で、ふうとため息を吐いた。

「分かった、一晩だけなら宿を貸そう。でも次の晩からは面倒は見れない。いいね？」

「充分です！ありがとうございます！」

ぱっと顔を輝かせて、心からのお礼を言う。

これで目先の問題はなんとかなった！やっぱりクローリーは優しいんだ！好き！！

張り詰めていた緊張が解けたことで周りが見えなくなった私は、自分を見るクローリーの顔に宿った感情に気づく事はなかった。