両者共に uri ページ3
.
濡れた髪に暖かい風が当たる。
目の前の洗面鏡では、浦井さんが真剣な顔付きで私の髪に指を通す。
「伸びたなあ」
『ね。前に美容院に行った時に、伸ばすとなると時間かかりますね、って言われたけどこう見てみるとずいぶん伸びたよね。』
「うん」
『あ、女の人だよ』
「まだ聞いてもないのに言わんといて」
意外にもヤキモチ妬きな彼に変な誤解を与えぬよう先回りしてそう言うと、彼はそう言って笑った。
こうしてお風呂上がりに髪を乾かしてくれるのは、浦井さんが家にいてくれる時は日課である。
彼のおかげで、私の髪は伸びた今も綺麗に保たれている。
髪の毛が乾くと、彼はいつも冷風に切り替えて乾かしてくれる。きっとそのおかげでもあるのだろう。
何故、彼は冷風にするといいという知識があるのだろう。
ふと頭に浮かんだ疑問から、嫌なことはどんどん派生して脳内が埋まった。
そんなことを考えていると、ちょうどカチッと音がしてさっきとは打って変わって冷たい風が熱を持った髪を冷やす。
「はい、おしまい」
ドライヤーの電源を切った浦井さんを鏡越しで確認してから私は後ろを向いて直接彼と目を合わせた。
『前付き合ってた子にもこうやってしてたの？』
自分でもあまりにどストレートな質問をしてしまったなと思ったが、それ以外になんと聞けば良いかわからなかった。
「してへんよ。」
彼はまた笑って答えた。開口一番"なんで？"と言う事はなくて安心した。
『だってちゃんといつも冷風にしてくれるから』
「ネットかなんかで見ただけやで」
微笑みながらそう言う彼のことを、わざと疑いを含んだ目つきで見てみる。
「もう」
そう言って浦井さんは私にちゅ、とキスをした。
「機嫌直してよ」
あまりに急な出来事で胸が鳴ってしまい、私まで笑みがこぼれてしまい、手で顔を覆った。
『…なおった』
驚くほどにすぐにモヤモヤとしていた気持ちは消化された。寧ろ、上機嫌である。
ヤキモチ妬きなのは、私の方だったのかもしれない。
「えらいなあ。ほら、風邪ひく前に部屋もどらな。
一緒にアイス食べよか。」
『うん、食べる』
この人は何処まで私の機嫌を取る天才なのだろうか。
これも全て過去の経験からか、とまた考えそうになったのを掻き消した。
浦井さんに今こうしてもらってるのは私だけなのだから。
この先も、私だけでありますように。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 152人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
林檎果汁(プロフ) - そらばうぉ＠（大体）同い年卍同盟さん» 夜分遅くにお返事失礼致します。実は、勢いで書きすぎてキャラ崩壊しているな、と反省しておりましたので、そんなこと言っていただいて嬉しい限りです。本当に有難う御座います。これからもよろしくお願いします。 (6月22日 2時) (
レス) id: 21f83d1d44 (このIDを非表示/違反報告)
そらばうぉ＠（大体）同い年卍同盟(プロフ) - 初めてのコメント失礼します…！最新話読ませていただいたんですけど、さすがに世界観大好き過ぎてコメントさせてください…甘い感じもありつつ、少しブルーな雰囲気もあって、ふんわりとした世界観がめっちゃくちゃ刺さりました… (6月22日 1時) (レス) @page16 id: df0b4c1e3d (このIDを非表示/違反報告)
林檎果汁(プロフ) - みこさん» 夜分遅くにお返事失礼致します。本当に有難う御座います！久しぶりの更新がパッとせず申し訳ありません…。これからもよろしくお願いします。 (6月20日 1時) (レス) id: 21f83d1d44 (このIDを非表示/違反報告)
みこ - 初めまして。お話の雰囲気がとても素敵で大好きです。何度も繰り返し読んでいます。林檎果汁さまのペースで、また更新していただけたら嬉しいです。応援しています！ (6月5日 0時) (レス) id: b749058d6c (このIDを非表示/違反報告)
林檎果汁(プロフ) - ●さん» コメント有難うございます。ごめんなさい。SNSアカウントは開設していないんです。もし機会があれば是非お知らせしますね！ (2023年4月1日 19時) (レス) id: 21f83d1d44 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：林檎果汁 | 作成日時：2023年2月25日 15時
