【d!】愛執シネマティック【短編集】 (ページ10)

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送り迎え/zm ページ10

放課後、仲のいい友達五人と溜まってなんでもない話をしていた。賢い進学校でもなく地元の高校だから、課題や受験の話は殆どなく、誰かの彼氏が冷たいだとか、別れた彼氏が別の女に走ったとか本当に下らない話。その中で私が適当に返事をしながらノートをカバンに入れているとお茶目な一人の子が不愉快そうにぼやく。

「Aが最近一緒に帰ってくれないの！……ねえ、聞いてるの？」

そんなことないよ。多分そうAが返事をしようと口を開いた時、被せるように彼女を指さすのがまた一人。髪を高い位置で結った活発な友人。

「あ～！知ってる、A彼氏捕まえたもんね」

その一言で一気に三人が彼女に迫りくる。興味津々、若き乙女達は虎のようにそちらを見つめる。出来れば無視してこの私も教室を出たいのだが彼女が話をしないと一歩たりとも動けない事を悟る。
そして私も、その話が気になっていた。

「えっとね……、あの人のことよく知らなくて。
最初に会った時、塾の帰りに一人で歩いてたの。夜十時くらいかな……凄い暗いし寒いし最悪だったよ。怖いなーって思いながら家に向かってたら半分くらいの所。真っ黒の外車とすれ違って、その時に鞄がボディに当たっちゃってさ。そこが出会いかな」

そう話して、一旦彼女らの表情を伺うA。解放してくれる、なんて浅はかな願いは粉々に砕けたようだ。水を得た魚のように目をキラキラと宝石のように輝かせては無言の、この世で一番恐ろしい“無言の圧力”なるものをかけている。背筋が凍る思いで三人にも視線を送りながらもう一度彼女の話に耳を傾ける。

「……、それで……よく見たら傷もついてたから……怒られるかと思ったの。そしたらあの人が『夜道は危ない、送るで』って……、お金払うって言ってもにこにこしてて……本当の事なの。夜よりもそのお兄さんが怖かった。早くこの空気から逃げたかったから送ってもらった。その後も学校から塾、塾から家まで送り迎えさせてって頼まれてるの。断ったらどうなるか分かんないからずっと……」

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