【d!】愛執シネマティック【短編集】 (ページ6)

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「そんな彼からのかすたむ、見たくなぁい？」
「みたいみたぁい！」

当然二択あれば二択双方に人々は分離する。人民戦線の完成である。共和制を重んじる左翼とファシストを重んじる右翼に人々は分断されたその中でシャオロンとAは右翼の最頂点に君臨していた。言わずもがな、言い出しっぺの法則である。人民戦線は国際情勢の緊張を高める為に一役買っていた。

「ねぇ、しゃおちゃん。此処に『君たちへの協力は惜しまない』って書いてあるぅー！」
「ほんまやぁー。」

悪どい笑みで二頭の悪魔は牙を見せて目で合図し合う。漆黒の封筒の中に丁寧に折られた一枚の便箋。其処には滑らかで緩急のある筆使いで彼のサインが成されていた。つまり私達にはバックが付いたのだ。だが、向こうも黙ってはいない。不可侵を結んでいるのだから向こうの人民戦線側、正確にはマヌエル・アサーニャに対してトントンが支援を送っているのは見え見えだった。誰もが利益に目を光らせ、舌舐めずりをしている。己の利益に従順な肉食生物達が今か今かと目的と資源を見返してにまにまと穢らわしい笑みを浮かべているのだ。

「なぁ、シャオロン。」
「どうしたん、A。」

彼女はまるで至福の極地と言わんばかりの蕩けた表情を浮かべている。瞳は何かに対して恍惚とする様な大型の猫化動物が獲物に対して勝利の美酒に酔い痴れる様な獰猛的な表情だった。問いかけられた彼もそれは同様で、狂気が渦巻く双眸を緩慢に細めた。

「スペインがこの手に落ちたらどうなると思う？」
「せやなぁ。平和の跡形も無く、築き上げて来た全てが崩壊するんやろうな。絶望に打ち拉がれる民衆達の耳元でそっと教えてやるんや、『俺達が全てやで。』って。」

ぞくりと身体の芯が震える様な発言を何でもない、当然の事実宛らに語る彼はその笑顔を崩す事はしなかった。彼女は彼の発言に対して幸福そうに頬を緩める。彼女は彼に抱き付いて耳元で何やら囁いた。側から見ればまるで少年少女のお遊びに見えるが、彼等が企んでいるのは国家の転覆。後に彼等が第二次世界大戦の引金を引いたと揶揄されるのは彼等の預かり知らぬところである。

#シャオロン→フランシスコ・フランコ、舞台→1936年スペイン。世界史→スペイン内戦(WW2 前哨戦)

著/ 鵯