【d!】白羽の矢【短編集】 (ページ9)

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その邂逅に果てはなくページ9

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そこからは、にゃあ、にゃあ、という声を頼りに足を進めていった。遠くで聞こえるような近くで聞こえるような不思議な鳴き声だ。
帰り道は正確にはわからないが、とりあえず自分の足跡を辿っていけばいいか、そんな事を考え、ふと下に目線をやると、猫の足跡は消えていた。その代わり、何故か人間の足跡が続いている。

どういう事だろう、私以外にも誰かこの先に向かった人間がいるのだろうか。
ちらりと背後を見てみると、たしかにそれは少し前までは猫の足跡だった事がわかった。

猫の足跡が、ある地点からまるで成り代わったかのように突然人間の足跡に変わっていた。

ぱちんと、夢から醒めたように、急に背筋が冷たくなった。私が猫だと思って追いかけていたものは一体なんだったんだろう。気づけば辺りは高い塀に囲まれていて一層暗く、何かに誘い込まれているかのような一本道だった。おかしい、先程までは確かに塀なんて周りになかった筈なのに。途端に恐怖心が湧き上がってくる。早く、帰らなければ、

「にゃあ、」

元の道を戻ろうとした瞬間、耳元で声が聞こえた。
振り向くと、ヘルメットを被った青年が目の前に立っていた。先程までは居なかった筈だ。目の錯覚だろうか、彼の後ろでは尻尾のようなものがゆらゆらと揺れているように見える。

「どうして逃げるんです？俺に会いたかったんでしょう？」

獣のような鋭い眼孔をこちらに向けて彼は言った。獲物を狙っているような瞳だ。

「俺もずっと会いたかったんすよ、あんたに」

また遊びましょ、これからずっと、

そう言った彼の瞳は、鋭さの中にどこか懐かしさをも感じさせられた。あの子と同じ、アメジストの様な美しい瞳だった。

しょっぴ、という名前が自然と私の口から溢れたと同時に、私は糸が切れた人形のようにゆっくりと膝から崩れ落ちた。動こうにも、何故か身体に力が入らない。

彼は地面に座り込んだ私の身体を優しく包み込む。
二又に分かれている黒々とした彼の尻尾が、私の頬を優しく撫でた。