唐櫃の花 ページ4
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どこまで走り続けただろうか。足がもつれ、そのまま地面に倒れそうになる。
その瞬間、ぴたり、と突然声が止んだ。息を整え周りを見渡すと、いつの間にこんなところへ来ていたのかわからないが、目の前には鳥居が聳えていた。神社だ、ここなら誰かいるかもしれない、そう考えて私はその鳥居を潜った。
神社は不自然なほどの静けさだった。
お守りを売っているような巫女さんも宮司さんも、お参りに来ている人も勿論いない。
だめだ、帰らないと。そう思い、鳥居を潜ろうと踵を返す。
「なあ」
先程の声が聞こえてきた。でも、これは頭に響いていたときとは違う、これは、この声は、
「なんで無視するん？」
背後にいる、私の後ろに直接声の主が来ている、
足音はしない、だが、確実にこちらに近づいてきている。
あれ、これは、この状況って、
「目の前に御馳走があるのに見てるだけっていうのはなかなかきつかったわ、この日が楽しみすぎて、ついつい昨日は我慢出来ずに触ってしもた。」
脚がガクガク震える、動かない。夢の中では私は箱に入っていた。開けられなければよかった、今は、わたしは、
「俺は
…あぁ、10年待ったわ、Aもまだ小さかったから、流石に現世から別れさすのは可哀想やと思って我慢したんやで、偉いやろ？褒めてくれてもええんやで？」
愉しそうな声は、もう私のすぐ後ろで聞こえている。
「俺の嫁さん、やっと捕まえたわ。幸せになろうな」
彼は私を後ろから抱き寄せる。全身の力が吸い取られていくように抜けていった。どろりとした、腐り落ちそうなほどの甘い囁き声が聞こえた。
「A、今日はめでたい日やなあ、」
**
もう一度、強い風が吹くと、そこにはもう誰の姿も見えない。
代わりに子供の小さい草履が一足、地面にぽたりと落ちていた。
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作者名：醤油 | 作成日時：2021年1月11日 17時
