唐櫃の花 ページ2
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久しぶりに実家の玄関を開けると、ふわりと懐かしい匂いが漂ってくる。私に気づいた母が、おかえりと嬉しそうな顔をしながら迎えてくれた。風呂に入り、夕飯を食べていると、「高校生活はどうだ」とか「一人暮らしには慣れたか」、「あんた東京住んで関西弁抜けとらん…？」などの母からの怒涛の質問責めにあった。
もう寝るか、なんてことを考えながらテレビを見ていると、嬉しそうな母がアルバムを持って私の前に座る。
「そういや、久しぶりにあんたのアルバム整理しててなあ、こんなん見つけたわ、なっつかしいなあ」
「へー、よく見つけたね」
母はアルバムを捲っていたが、目的の写真を見つけたのかその手を止めた。
「んー………あったあった！これやこれ……」
母は熱心に説明してくれているが、正直、疲れ切っていて今にも瞼が落ちそうな私の耳には内容の殆どが入ってくることはない。
頭がこくり、こくりとし始め、そのまま視界は落ちていった。
**
最近、頻繁に同じような夢を見る。
私は箱に閉じ込められている。いや、閉じ込められている、というのは語弊があるのかもしれない。閉じこもっていると言った方が正しい。
ここは何も見えないほど暗い上に狭くてとても怖い。しかし、外には出てはいけない、と本能が叫んでいる。いつも何かがこちらを見ている気配がするのだ。じっとりとした、肌に張り付くような視線で、すごく恐ろしい。
いつもは、ただこちらを見ているだけだ。しかし、今回は違った。
何かが、こちらに近づいてくる。
物音はしない。だが、来ているということが感覚でわかってしまった。
「……っ！」
漏れそうになる悲鳴を必死で抑え、身体がさらに強張る。こないで、こないで、そう願っても何かは確実に近づいてきていた。
がたり、
頭上で音がする。何かが箱を開けようとしている。
蓋を開けられてはいけない、そう考えている間にも、箱はがたり、がたりと動いている。揺れは徐々に激しいものになっていき、私は身体をさらに縮こませて震えていることしかできなかった。
どのくらい経ったろうか、突然揺れはぴたりと止まった。諦めたのだろうか、今までの緊張が解けたせいか、私はまた意識を失おうとしていた時だった。外から、ぽつりと言葉が漏れる。
「楽しみやなあ」
いつか、聞いたことのある声だった。
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作者名：醤油 | 作成日時：2021年1月11日 17時
