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空気が肺に入ってくる感覚に、また死ねなかったことを察した鬼子は
何の感情もなく目を覚ました。
ただの曇り空が視界に入り、いつもと同じ景色であることを悟った。
瞬間、すぐそばに人の気配を感じてそちらへ目を向ける。
そこにいたのはしつこくついてきていた1人の人間。
鬼子と目が合うと、寂しそうな目で微笑んだ。
「おはよう。もう痛くない?」
人間は鬼子の手を握っていた。
理解した途端、鬼子は感じたことのない温もりに手をピクリと動かした。
抵抗する気などない。
この人間が何の目的で接触してくるのかなど、鬼子は対して興味はなかった。
知っていることとすれば、この人間が鬼子に対して化け物を見る目をしていたこと。
それが今、なぜこうも寂しげに揺れているのか。
人間は鬼子の手を包み込み、視線を下に落としたまま語りかける。
「……ねえ、僕が寝てる間に考えていたんだけど、1つ交渉しない?
私は独りが嫌で、この世界に味方が欲しい。
僕は死にたいんだよね?でも、そのステ……特異体質のせいで死ねない。
ねえ、私と一緒に過ごそう。代わりに、いつか私が──」
「──殺してあげる」
普通の人間からすれば殺害予告でも、死ねども死ねない鬼子からすれば全く違う認識になる。
鬼子はこれといった反応を示さずに体を起こし、そのまま動きを止めた。
しばらくそうしていたがやがて人間が立ち上がり、鬼子の手を引いた。
鬼子は抗うことなく人間に従う。
どうやら、交渉は成立したようだ。
とはいえ、人間も鬼子も行くあてなどなく、さっそく途方に暮れてしまった。
山の中をさ迷いながら、木の実を見つけてはちぎって食べた。
体に異常が見られないと思ったら、それを鬼子に食べさせた。
最初こそ不思議な顔をしていた鬼子も、与えられるものに躊躇いをなくしていった。
信頼し始めているのかと言われれば怪しい。
結局、手を繋ぐ2人はこの世界から解放されたがっているだけだからだ。
夜が更け、朝になる準備を始めた頃に人間のお腹の虫が鳴く。
「やっぱり木の実だけじゃ満たされないよね……
僕は大丈夫?」
話しかけられた鬼子はなんの反応も示さない。
冷たい風が頬にあたり、気温が下がっていることを思い出して
鬼子に上着を着せた。
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作者名:ウェイウェイ | 作成日時:2024年3月5日 16時