購買 ページ47
この賑わい、僕が在学していた頃を思い出す。今でも購買を利用する人は多いんだな。
雑踏の中の列に並ぼうとした時、隅の方に人形を抱えて列を睨む見知った人影を見つけた。
あのゴシックが最高に似合いそうな容貌のピンク髪はしゅーくんに違いない。
何故並ばないのか気になって声をかける事にした。
「やあ、しゅーくん。久し振りだね」
「ッ?!……ああ、ジゼルか。驚かせないでくれたまえ」
「ごめんね?ところで、こんな隅っこでどうしたの?」
昔の可愛らしかった泣き顔と打って変わって、険しい顔で人々を威圧的な視線を向けていたのは触れずに、軽い質問だけを投げかけた。
「……人が減るのを待っていただけなのだよ」
「あ、昔から人混みが苦手だったもんね」
「ああ。あの群れに紛れるなんて想像もしたくないね」
冷たく鼻で笑い肩をすくめた。
頑固なところ、子供の頃から変わらないな。だいぶ冷笑的になってしまったようだが。
「じゃあ僕と一緒に行こうか」
「なっ……!待ちたまえ……!」
これでは時間が掛かって仕方がないので、しゅーくんの腕を強めに掴み、列の最後尾に二人で突っ込んだ。
しゅーくんの場合、強行すれば割りと事が進む事を知っている。後で少し怒られるのが難点だが。
「全く、君はどうしてAと違って優しさというものを知らないのかね?」
「知っているよ。この身に備わっていないだけさ」
並んだは良いものの、予想通り粘着質な叱咤を浴びせられた。昔と性格が変わったとは言ったものの妹に執着している事に変わりは無いようだ。
「はあ……Aが君に似なくて良かったと心底思うよ」
僕の冗談とも取れる事実に盛大な溜息を吐いたしゅーくん。幼馴染とはいえ、一言喋る度にAの名前を出すのは如何なものか。
そうこう話していると、案外早くレジ前にたどり着いたようだ。
しゅーくんはクロワッサンだけを購入し、僕はざっと見て一番多く残っていたあんパンとサンドイッチを選んだ。
財布からカードを取り出そうとしたが、横で僕を待っていてくれたしゅーくんが訝しげな目で使用不可能と忠告してくれたので、500円玉を探した。
すごく探した。
無かった。
というか小銭すら無かった。
あるのは1万円札3枚のみ。うわあ。
しゅーくんが見ていられない、と言うように顔を反らした。
「……申し訳ないです」
他にお金を払う手段も無いので極力誠意の籠った声で非礼を詫び、万札をおずおずと差し出した。
店員は先程のしゅーくんと同じ目で僕を見た。
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流離いのsecret(プロフ) - ぎゃぁぁ本当だ……!ご指摘ありがとうございます! 細かいところまで読んでいただき嬉しいばかりです笑 (今後気を付けます笑) (2019年7月13日 22時) (レス) id: 451ca50573 (このIDを非表示/違反報告)
しか - ごめんなさい。「混沌」でした!! (2019年7月13日 21時) (レス) id: 3bc0209618 (このIDを非表示/違反報告)
しか - 「悩み」の話の「敬人」が「敬斗」になってますよ(コソッ面白かったです。これからも頑張ってください! (2019年7月13日 20時) (レス) id: 3bc0209618 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - ありがとうございます!頑張ります!(語彙力ない)笑 (2019年6月24日 14時) (レス) id: 451ca50573 (このIDを非表示/違反報告)
ゆん - 面白いです(語彙力ない) (2019年6月23日 21時) (レス) id: 19c16fa711 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流離いのsecret | 作成日時:2019年5月2日 14時