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午前10時。
さわさわと木々の擦れる音が聞こえてくる。
私はといえば、朝から変わらずスーツ姿。
こんな形でおばあちゃんの家に帰ってくることになるなんて思ってすらいなかった。
電車と、バスとに数時間揺られて、降りたらちょっと山道を歩く。私の他に歩く人はおらず、本当に静かな場所だった。
地図アプリ片手に、靴擦れを我慢しながらいろいろと考え事をする。
おばあちゃんの家。そういえば、ずいぶん行っていなかった。昔はよく行ったものだったけど。
あの家は二階建てで、キッチンの広い家だった。
母が大兄弟だったから、部屋がたくさんあって、庭もリビングも広く、大きなレンガ積みの古い暖炉を囲って親戚揃ってご飯を食べることができた。
蜂の巣のような家。大きな蜂の巣。あそこにはすべてがあった。
そうだ。私はあの家が大好きだった。あの暖かい家でみんなと過ごす時間が。
「…あ！」
角を曲がったところに、家は突然現れた。
記憶より幾分かボロになってはいるけれど、ほとんどがあの頃のまま。
門を押し開けて入ると、庭の隅にオレンジ色の子供用のハンドシャベルがさしてある。
おばあちゃんが買ってくれた、持ち手がウサギの顔のようになっているやつで、裏庭にある畑で育ったにんじんやら芋やらを、あれで少しずつ少しづつ掘り出してた。
昼ごはんにそれが出たりしたらたまらなく嬉しく、たとえ美味しくなくたって、私はそれが大好きだった。
一気に思い出が蘇るようで、ドキドキしてしまう。
「わあ…本当に、懐かしい」
嬉しさと、少しの不安が胸を満たしていく。
こんな大きな家だ。きっと管理は大変だろう。
でも、きっとなんとかやっていけるような気がする。
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作者名：生姜焼き太 | 作成日時：2024年1月16日 22時
