青色絵の具【らunei】 (ページ1)

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蚊取り線香ページ1

大暑を過ぎた夏の日の午後。入道雲がぎらぎらした太陽に照らされて、
部屋の中で漫画を読むには余りも過ごしにくくて、私はついに扇風機の電源をいれた。

　隣でアイスを食べてるらっだぁのこめかみから汗が垂れて、
青っぽい髪の毛をじっとりと濡らしている。
それをなんとなく眺めていると、彼は不意に鼻をつまんで言った。

「...なんか変なにおいしない？」

「ええ、何急に。汗でしょ、シャワーとか浴びてきたら」

アイス食べおわったらね、と付け加えると、
らっだぁは違くて、と首をふった。

「なんか煙？みたいなにおいする気がする」

「...あー、それ多分蚊取り線香だ」

人差し指を窓の縁に向けると、らっだぁは視線だけそっちによこして、
あーね、といいながら最後の一口を頬張りアイスの棒を投げ捨てた。

「ねえA、消していー？」

「ええ駄目だよ、蚊入ってきたら嫌でしょ」

「もういいよ刺されても」

「いやいや、前私が刺されたとき散々騒いだじゃん」

　首元を刺されて、浮気だなんだとごねごねしつこく言っていたのを思い出す。
そう言えば、あれがあって蚊取り線香を買ったんだったか。
あんまり匂いとかは気にして無かったのが裏目にでたようだ。

きゅっと顔の真ん中に皺を寄せる彼の仕草がどことなく鼻につく。
扇風機のお陰で汗はすっかり乾いてしまった。

もうちょっと我慢して、と呟くように言って、漫画をパタンと閉じた。

　ごろんと床に寝転がると、線香のにおいとぬるい夏の風がさらさらと流れ込んできた。
心地よくて、ふうっと息を吐き出す。
らっだぁが隣に寝転がって、こてんと首を傾けた。彼の瞳は空によく似ている。

「...A、もう消していい？」

「まだいってるの、もうじき勝手にきえるよ」

「...ん、」

　開けっぱなしの窓から見える空は青々としていて、その光がガラスを通してきらきら伝わってくる。

ぼーっとしていると、だんだん眠気がやってきた。水流のように、太く静かに。

横をみると、らっだぁはぽそぽそと、目をこすっていた。らっだぁもきっと、眠いんだろうな。

口数が減って、扇風機の音に混じって、呼吸がいつもより大きく、聞こえた。