Dream assorted yt × in (( HBD短編集 )) (ページ35)

今日:23 hit、昨日:1 hit、合計:131,866 hit

2. ページ35

.

水曜日の22時、10分前。外は雨。

雨の日はいつだって暇だからって、いつもより早めに閉店しようとしたらずぶ濡れの彼がやってきたんだ。

「もう閉めますか…？」

「いや、まだ大丈夫だけど」

こんな時間に彼がやってきたのは初めてだからすこしびっくりした。

しかも彼は傘も持っていないみたいだし、その表情には生気がない。いつものキラキラしたオーラもなりを潜めててまるで別人だ。

「えーと、タオル使う？あ、お茶入れるよ」

バタバタと慌ててしまうおれとは正反対に、彼からの応答はない。ただぼんやりと空を見てるだけ。

なんか変だ、と思った。
このまま声をかけなかったらどこかに消えちゃいそうだ、そうとも思った。

「中島くん、中島くんってば！」

ぐって引いた腕と、はっとした彼の表情。

まるで迷子のようなその瞳を見た瞬間、何故だか彼を守ってあげたいという衝動に駆られた。抱きしめて、髪を撫でて、温めてあげないといけない。そんな気がした。

「伊野尾、さん…」

掠れた声は耳のすぐそこ。

腕を伸ばして引き寄せた身体は、6月の雨のせいでやっぱり冷たい。

「え、と、その……、」

なんて言えばいいのかはわからないけど、ただ彼を安心させたかった。

だから、その無装備な背中を撫でる。そして髪を撫でて、頼りない大きな身体を捕まえた。

「大丈夫だよ、大丈夫。おれが守ってあげるから」

言い聞かせるように、ゆっくりと。

なんの信憑性もないけど、おれが守るってのは本当だよ。だって君は、おれにとって大事な存在。出会ってまだ全然経ってないのに、おれは君の存在にずいぶん救われてるもの。

街の外れの花屋。人なんて滅多にこないこの店に、君はいつでも新しい季節を届けてくれる。

「おれはね、いつも中島くんに元気もらってるんだ」

だからねえ、今度はおれの番。

君を笑顔にしたいよ。