Dream assorted yt × in (( HBD短編集 )) (ページ34)

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inoo.

彼がやって来るのは、決まって月曜日の午後。

「こんにちは、伊野尾さん」

大きなマスクとサングラスが外れたら、キラキラと音が鳴りそうな笑顔が顔をだす。

「こんにちは、中島くん。…撮影は？」

「抜けてきました」

「え、それ大丈夫なの？」

「いーんです。俺、いつも優等生だから」

仕事をエスケープしてまでここにくるなんて物好きだな。でも、来てくれることが嬉しい。

彼は大人気なスーパーモデル。おれは小さな街のしがない花屋。

交わるはずのなかったふたつの平行線が重なったのは3ヶ月ほど前のこと。

「今日のオススメのお花は何ですか？」

「オススメって…、毎回聞くけど食べものじゃないんだからそこまで日によって変わらないよ」

「それでも、今日1番綺麗な花が知りたいんです」

苦笑いのおれにもニコニコと笑って伺ってくる彼は、なんだか子犬みたいだ。

おれよりも背だって高いし体格もいいのに不思議だけど、年下らしい彼はやっぱり可愛い。おれももうそんなことを思う年になったと思うと、ちょっとだけ複雑な気持ち。

「んーとね、だったら今日はこれかな」

数ある花の中からキラキラの彼に差し出したのは、青みがかった紫の花。

そっと差し出される手のひらに愛しい花をひとふさのせる。

「デルフィニウムって言うんだ」

花言葉は"清明"。「まるで中島くんのことみたいだ」と言えば、整った眉尻ゆるく下がった。

「俺は、そんなできた人間じゃないんですよ？」

そう言った時の君の表情の違いを、この時のおれはまだ知らない。君の心の細かな傷にまだ気づいていない。

「そうかな？中島くんはおれが出会ってきた中でも断トツに好青年だけど」

手持ち無沙汰になった彼から花を取って、紙を巻いてその手に戻した。

この花で、彼の心が苦しんだのだとも気づかずに。