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4. ページ27

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どれくらい時間が経ったんだろう。


雨雲で暗かった部屋が、今度は夜の闇に包まれてる。




「ただいま」




ガチャりと鍵が開く音が聞こえて、何も知らない恋人が帰ってきた。


まさか、おれがあの瞬間を見てたなんて夢にも思ってないんだろうね。




「いのちゃん?居るの?」




訝しげな声が真っ暗な部屋に響いた。おれが、この家にいることを疑わない声が白々しい。

おれは今まで従順に、外出する時には裕翔に連絡を入れてたから。「どこに、誰と」。裕翔がそれを望むから、縛られることさえ幸福だった。




ねえ、裕翔、

おれは裕翔が好きだよ。



裕翔は一体、誰のもの___?




「おかえり、裕翔」




ゆらりと立ち上がれば、おざなりに髪を拭ってたタオルが床に落ちた。




「こんな夜まで、何してたの?」




右手にはずしりと重たい感触。いつの間にか差し込んだ月明かりが、むき出しの刃に反射する。




「裕翔は、おれが好きなんでしょ?」


「いの、ちゃん?」


「好きなら、答えろよ…!」




震える手が、壊れた心が、鋭い刃を恋人に向けた。




「ほんとは全部我慢してた…っ、友達と出かけるのだって、飲み会だって、裕翔が嫌がるからって断ってばかりで辛かったんだよ?でも、裕翔が好きだから、受け入れてたのに…っ、おれ以外見ないでよっ、おれ以外を好きにならないで…っ」




あーあ、泣きたくなんてなかったのに、カッコ悪い。でもいいや、もう取り繕うのはやめる。



信じてたから、何でも言うこと聞いた。好きだから、愛してるから、握られた手を振りほどかなかった。


だからね、裕翔、

裏切るなんて許さない。



おれを捨てるならこのままお前の前で___




虚ろな目で踏み出した一歩は、優しい腕に抱きとめられて留まった。


力の抜けた手のひらからカランと音をたてて、包丁が滑り落ちた。

fin.→←3.



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作者名:こさこ | 作者ホームページ:http://ma-no homepage  
作成日時:2018年6月13日 21時

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