Dream assorted yt × in (( HBD短編集 )) (ページ26)

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「あれ、裕翔じゃね？」

雨が降る、月曜日の午後。

カフェテリアでの空きコマ潰しにいそしんでいれば、隣にいたひかるが窓の外の人影を指さす。

「ほんとだ、裕翔と…大ちゃん？」

「だな。なんか楽しそう」

ひとつの傘に入って何かを話してるふたりは、肩と肩が触れてしまう距離で笑いあってた。

「あ、の、いのちゃん、…大丈夫？」

すこし曇ったひかるの声。

おれと裕翔が付き合ってることは別に口外してないけど、なんとなく皆知ってる感じ。だから、なんとなくこういう時は気を使われる。

いつもは馬鹿にしたりからかったりするひかるなのにね。意外と優しい奴なんだ。

「別に、大丈夫だよ」

小さく笑って答えたのは、ほんとに大丈夫だと思ってたから。

「俺のこと好きなんでしょ？」って聞いてくる裕翔も、同じくらいおれを想ってくれてるって思ってたから。

なのに、

神様って理不尽だ。

「え…」

知らなければ良かった現実を押し付けるんだから。

「なんで、」

全てはスローモーションのようにおれの目の前を通り過ぎていった。

大ちゃんが裕翔の腕を引っ張って、裕翔が持ってた傘が落ちる。それで、それで＿＿、裕翔の身体が傾いた時、ふたつの影が重なった。

「嘘だろ、おい…」

小さく唸ったひかるの声も、膜を張ったようにくぐもって聞こえる。

雨の音も、カフェテリアの雑音も、全部が全部遠くで響いてるみたいだ。

「…、帰る」

席を立ったのは、これ以上ふたりを見ていたくなかったから。

「ちょ、いのちゃん！」

引き止めるひかるの腕を振り払って、傘も持たずに外に出た。

「なんで、…なんで、だよ」

なんで、キスなんかされてるの？なんで、突き放さなかったの？なんで、なんで、なんで＿＿＿。

消えない事実と、身体に染み込む雨が、鋭く心を冷やす。

叫び出したいような泣き出したいような気持ちで家に帰れば、まとわりつく裕翔の匂いに目眩がした。

おれは、裕翔にとってどんな存在だったの？都合のいい人形？

縛り付けるだけ縛り付けといて、こんな仕打ちあんまりだ。

シャワーを浴びるのも億劫で、濡れた身体でリビングの隅に座り込んだ。寝室も、ソファも、裕翔の気配が強すぎて近づきたくない。

『ほんとに俺が好きだね』なんて、

あの時裕翔は一体どんな気持ちで言ったんだろね。