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【 雨 】





「うわ、降ってきた」




雨の日は憂鬱だ。

このまま雨の中に溶けちゃえたらどれだけいいことか。そんなことを真剣に考えてた時もある。



駅の改札を出てから感じていた雨音。

水溜まりを跳ねるタイヤの音。



騒々しい街を駆け出そうとした時、降り注ぐ雨が止んだ。いや、俺に当たる水だけが消えた。




「迎えにきたよ」




雨と夜のネオンでカラフルに煌めく銀髪と、ちらりとのぞいた白い歯。特徴的な声は聞き間違うはずなんてないもの。


傘をさした同居人の宇宙人がそこにいた。




「イノオさん…」


「なあに」




なんて言ったらいいかわからなくて名前を呼べば、眠たげな瞳を細めて彼は笑う。


そんな風にされたら胸がぎゅうっと苦しくなって、彼の持つ傘を奪って肩を抱いたら、素直に寄りかかった銀髪が頬に触れた。




「生きてね」




たった四文字の言葉。


でも俺はきっとこの言葉に生かされてる。




「…うん」




掠れた返事は雨にかき消されたけど、彼は何も言わなかった。


ただ、「帰ろ」って、傘の柄を掴んだ俺の手に氷のように冷たい自分の手を重ねる。




どうしてあなたは俺を生かしたの?

そしてどうして勝手に命を救ったあとも俺の傍にいるの?




知りたくて、知りたくて、知りたくて___




これがただの好奇心なのか、それとも他の気持ちなのか、正直俺にはわからなかった。




でも、




濡れた身体を玄関に滑り込ませて、その冷えた身体を抱きしめた時何かがストンと胸に落ちた。




彼にとっても俺は"生きる"目的なんだ。



だって、ほら、俺の背中を抱く腕がこんなにも震えてる。





「イノオさん、教えてよ」




雨の冷たさに白くなっしまった耳に囁いた。




「あの日、俺を助けた理由」




覗き込んだ白い顔は、やっぱり俺ら人間と違ってどこか光沢を含んでる。



遠くて近い、宇宙人のあなた。

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作者名:こさこ | 作者ホームページ:http://ma-no homepage  
作成日時:2018年6月13日 21時

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