Dream assorted yt × in (( HBD短編集 )) (ページ12)

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【運命】

苦手な上司に押し付けられた出張。

仕事は取れたけどその達成感より疲労感がまさった夜行バスで事件は起こった。

『今から俺たちは、このバスをジャックする』

平坦な声が響いたかと思ったら、今度は鋭い悲鳴が走った。

そしたら目の前に赤い液体がぴゅっと飛んだ。

それは、血だった。

『我々は日本国再建のための使者である。現代社会を汚す政府への抗議のために我々は命を捧げるのだ』

能面のように表情のない男がそう言うと、自分が着てたパーカーを脱ぎ捨てた。

そこには大きな筒状のものがいくつも巻かれていた。

何かは、すぐにはわからなかった。

でも、"爆弾だ"ってのは無意識にも理解していた。

『抵抗するものは殺す』

そう能面男は言ったけど、結局爆弾で爆発するなら皆死ぬのではないか。

なんてつらつら考えるレベルには、俺は"死"というものを恐れていなかったのかもしれない。

夢なんて見つけられないまま就職して、やりがいなんてものはまだ見つけられてなかった。

成績に左右される同僚が、
部下にセクハラをする上司が、

そのすべてがうっとうしくて自分の生きる世界に壁を作ってた。

だからこそ希薄だった人間関係。

それに加えてもう何年も連絡を取ってない実家との関係。

失うものなんてなんもなかったんだ。

俺が死んだところで、世界は簡単にまわるから。

年配の運転手がハンドルを誤った時、俺は楽になれたと思った。

バスがガードレールをぶち破って落下するのにも恐怖は感じてなかった。

ああ、落ちるな、と思っただけ。

でも、

「中島さん、本当にあなたは幸運だ」

俺は助かった。

「他の乗客は皆爆破に巻き込まれてしまったけど、あなただけは海に投げ出されて無事だったのよ」

俺だけは、助かった。

「では、お大事にね」

ほぼほぼ無傷だった俺は数日の後病院を退院した。

まだ"生きたかった"人が死んで、"死んでもよかった"俺が生き残る。

神様は理不尽だと人事のように思った。

「…ただいま」

数日間の留守を守った俺の家。

誰も居ないはずの部屋に声をかけたのは気まぐれ。

だったのに、

「お、ちゃんと無事だったか～」

ほとんどない荷物を抱え帰宅した俺を出迎えたのは無人の玄関じゃなくて、

「おかえり、ナカジマユウトくん」

夢に出てきた銀髪の宇宙人だった。