鼠のスパイは混沌の中で焦燥に駆られる。【中原中也】【ドストエフスキー】

予感 ページ22

Aはフョードルからの通信を切った後、自分の口角が上がるのを感じた。久しぶりの彼の方からの通信である。

彼自らの意思とは云え、首領が行方不明。前線は混乱している。


──今のうちに情報を集められるだけ集めておかないと。


しかし、マフィアに関する既存の情報はあらかた集め終わってしまった。極めつけはフョードルが奪った構成員の異能リストである。

あれに比べれば、Aの情報はステーキに添えられたポテトのようなものだ。今の彼女の役割は、ポートマフィアの動きの変化を逐一報告することである。

従って、今1番欲しいのは首領からの新しい情報なのだが──。
そう思っているうちに、頭の中に声が響いた。



『黒崎君、探偵社の協力者が鼠の拠点を発見したそうだよ。小隊を送って欲しい。探偵社の兵力と併せて包囲する』

『了解しました』



欲しかった首領からの連絡に、Aは心の中で小さくガッツポーズを取った。

紅葉に電話をし、彼女の隊、それと黒蜥蜴も動かすように頼む。



≪全く……幹部に指示を出すなぞ、御主くらいのものじゃぞ？≫



≪そちらの方は任せたぞ。頼りにしておるからな、未来の幹部殿≫そう云い残して電話は切れた。

未来の幹部殿か。Aは苦笑する。
残念ながらそれは叶わない。これから先、流石に年単位の長期戦にはならないだろうから。


「……眠いなぁ」



戦況は大きく動き出している。異能の連続使用は体調に影響を及ぼしてくるのだ。

大きく伸びをした後、現状把握の為に歩きだした。


──中也さんに連絡が取れないことが気掛かりなのだけれど。

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