Fate/いくつもの花

シルの持つ優しさ―１ ページ5

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 音が耳に届(とど)いた。怒(いか)りの籠(こも)った声が――


「ふざけんなよ！ ガキ相手(あいて)に性根(しょうね)の腐(くさ)ったこと言ってんじゃねえ――！！」

 回(まわ)し蹴(げ)りが相手(あいて)に入るところだった。

 その時だ。ガクッと複数人(ふくすうにん)いた相手は地面(じめん)に横(よこ)たわっている。

 青年(せいねん)の足が直撃直前(ちょくげきちょくぜん)で止(と)まり、青年は目を丸(まる)くして零(こぼ)す。

「Aさん――」

「大体(だいたい)のことはきいてた」

 そう口にする娘(むすめ)の右腕(みぎうで)には、蹴(け)りを入れようとしていた相手の男。力無(ちからな)く気絶(きぜつ)している。彼女の腕(うで)に支(ささ)えられて。

「あたしも同(おな)じだけど、騒(さわ)ぎを起(お)こすもんじゃない。あたしですらああなんだから」

 ――知(し)ってるでしょ……？ と、自嘲(じちょう)するように彼女は言った。哀(かな)しそうな目で、自分も青年と同じ気持(きも)ちだけどと。

 力を持つ彼女は表情(ひょうじょう)を変(か)えない人だ。その彼女が哀(かな)しそうな目をした。

 力を持っていようと、自分は、今まさにとある王によって騒(さわ)ぎに巻(ま)き込(こ)まれている身なのだからと。

 だからこそ、自嘲(じちょう)するように彼女は言ったのだろう。

 青年、シルはその姿(すがた)に辛(つら)そうな顔になって、自分を抑(おさ)えるように口を閉(と)じる。

 彼女は腕(うで)で支(ささ)えていた男(おとこ)を地面(じめん)に横(よこ)たわらせる。


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