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熱っぽく言った彼のその言葉には何も反論の言葉は続かなかった。彼と私の距離は完全に0となり、佐野くんのドアップが目に映る。胸が張り裂けそうなくらい心臓は脈打っていて、やっぱり私は佐野くんに殺されそうだ。先程のハプニングとは全く違う唇に感じる感触は何て表したらいいかわからない。だけど確かに先程とは何かが違った。
皮膚と皮膚の接触問題についても、
きっと彼の言ったことが正しいんだと思う。
キスは皮膚と皮膚がぶつかるだけのものじゃない。
確かにそれだけものではなかった。
ぼーっと目の前の端正な顔立ちを眺めながらそんなことを考えていると、ゆっくり彼が離れていった。
「…せめて目瞑るくらいできねーの」
「…わ、忘れてた。…何が何だかわからなく、て」
「じゃあもう一回する？」
もう一回しよっか。
佐野くんはそう言ってまた私に口付けた。けれど先程の触れるだけのソレとは違い、今度は何度も何度も角度を変えていく。恋愛もののテレビドラマでよく見かけるようなキスだった。目の前のこの人で頭がいっぱいになって、目の前のこの人のことしか考えられなくなって。世界は私たちだけしかいないんじゃないかと錯覚してしまうようなキスだった。
酸素を失い、考える力も停止し、息苦しくなってきたときようやく現実に引き返されたかのような感覚に陥った。ドンドンと力なく彼の胸を叩けばゆっくり佐野くんは私から顔を離す。
「……」
「……」
「……何考えてた？」
「…っそんなこと、聞かないで」
「オレのこと考えてた？」
「……うん」
「Aの頭ん中オレしかいなかった？」
「……っうん、いなかった…」
佐野くんは満足そうに「だろ？多分キスってそういうこと」そう言って可愛い顔して笑っていたけど恥ずかしすぎて私は笑えず顔を両手で覆った。
「これ以上ここいたらオレ止まらなくなるから教室戻ろ」
「……」
「A？」
「…嫌いになってないの？」
「は？」
「私のこと嫌いに、なってないの？」
「…何言ってんの？」
「だ、だって…メール返事来なかったし、てっきり嫌われ、ちゃったの、かと」
彼の私を見る目が鋭い目になったのを感じて段々と語尾が小さくなってしまう。佐野くんは私の腰をグッと引き寄せて離れかけた体を再度密着させると低い声で言った。
「お前はオレが嫌いな奴にこんなことすると思ってんの」
「……そういうわけじゃ、ない、よ」
「オレの気持ちを勝手にAが決めつけんなよ」
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作者名：柴咲華 | 作成日時：2021年8月10日 23時
