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友人の言っていたことを思い出した。彼と友人の言った言葉は似ているようで全く正反対だった。
彼女は言った。
【キス】は皮膚と皮膚がぶつかるだけの行為だと。
佐野くんは言った。
【キス】は皮膚と皮膚がぶつかるだけの行為ではないと。
どちらが正しいかなんてそんなことはどうでもよかった。私的にはあれはキスじゃない。あんなのカウントに入れたくない。そう彼に伝えれば「じゃあいいじゃん。何もなかったんだよ。ぶつかっただけ、それでいいじゃん」そう言った。
だけど…
「っ、ごめん…!わかってる!わかってはいるのにそうは思えないっ」
「……」
「初めては、佐野くんだと思ってたっ…」
「…A、」
「っ初めてはっ、佐野くんがっ…良かったの!」
「……」
「こんなことならっ、恥ずかしがらずに佐野くんとしておけば、よかった…よ!」
ボロボロと目から涙が溢れ出た。滲んだ視界に映った佐野くんはとても困ったような顔をしていた。それはそうだ。これ以上私に言えることは何もないだろう。
佐野くんはできた男すぎた。だって私には絶対に言えない。もし佐野くんが他の女の子と事故で口同士がぶつかったとしても、私は彼のように声をかけることはできないと思う。きっと動揺する。嫉妬する。醜い感情になってしまう。
彼に気にしないでなんてきっと私には言えない。
けれど佐野くんは私の気持ちを軽くするために気にするなと言ってくれた。大丈夫だと言ってくれた。いつも私の気持ちを第一優先に彼は言葉を選んでくれた。それなのに私は…彼を困らせるようなことしか言えない…彼女失格だ。
「じゃあさ、もう後悔しないようにしようよ」
「っえ?」
「最初から、こうしとけばよかったな」
佐野くんは強い力でちょうど目の前にあった空き教室のドアを開けた。そして引き摺り込むように私を中に入れると後ろからガチャッと鍵を閉める音が聞こえる。「さ、佐野くん!どうしたの!」状況についていけなくて、彼の顔を見てその質問を投げかけた瞬間視界はぐらりと揺れ体が宙に浮いたのがわかった。
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作者名:柴咲華 | 作成日時:2021年8月10日 23時