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「は?何言ってんだよ。こんな時間に女の子1人じゃ危ねえって。俺送って行こうか?」
「…いや、それはもっと大丈夫」
「何だよもっと大丈夫って。こんなフラフラな女、しかも元カノに対して送り狼になんてならねぇけど」
「いや、そういうこと…じゃなくて、」
「?」
「…た、かし…が」
「え?」
「…隆に、悪いから。彼が不安になるようなことは、したくない…から」
「隆?それってさっきの奴?彼氏?」
「……うん」
「あ、じゃあその彼氏に迎えにきて貰えよ」
「……ううん、本当に大丈夫。今日はもう会いたくないから」
きっと隆は、今電話をしたとしてもすぐに駆けつけてくれる。どんなに遅い時間だろうが、忙しかろうが、私が電話したらきっとすぐに電話に出てくれるし、迎えにきてと頼めばバイクを飛ばして一瞬で私のところにきてくれちゃうような人。私が叩いたことなんか忘れたかのように振る舞い「仕方ねぇな」って言いながら、私の手を引いてくれる。そんな優しい人だ。
それなのに私は、隆が珍しく電話なんか掛けてきたというのに電話にも出ず、よく考えたら周りのことをよく見て行動する彼があんな行動に走ったのは、何か理由があったはずなのにその理由も聞かず、怒って叩いて泣いて逃げて。
いつも隆は私の話を聞いてくれる。
いつも私の味方でいてくれる。
いつも精一杯の優しさで包みこんでくれる。
なのに、私は隆の話も聞いてあげられなかった。何かあっただろう彼の味方になり隣にいてあげられなかった。優しく包み込んであげられなかった。
隆のことが嫌になったわけじゃない。自分勝手な自分が嫌で隆には会いたくなかった。
「鞄取ってくるから、待ってて」
お酒が回っているのと、自己嫌悪で視界が滲み涙が溢れた。葉山くんはそんな私に気づかないフリをする様に頭にポンと手を乗せたあとお店に戻って行った。
彼を待っている間に、どうやら眠ってしまった私は一定のリズムで揺れる自身の体に気がつき目を覚ました。その瞬間、嗅ぎなれた男性ものの香水の匂いが軽く鼻先を擽り、頬にはワックスで少し硬くなった髪の毛先が触れて擽ったい。状況を理解しようと身を捩って体制を整える。すると私の体を運んでいる正体である人物は一定のリズムを崩さないままにこちらを振り返った。
彼の肩に私の顔があるせいで、振り返った彼との距離が近すぎて一瞬息が詰まりそうになった。
「お、起きたか?」
「…な…んで」
何故彼が今ここにいるのだろう。
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作者名:柴咲華 | 作成日時:2021年8月10日 23時