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「久しぶり、元気だった?」
「…風間くん」
そう言って、懐かしい笑みを浮かべながら彼は手を挙げた。私が初めて付き合った人。元カレだ。
随分と昔の話だから今更気まずい気持ちになったりはしないが、どう話していいか分からず妙に緊張してしまった。
「さっき声かけようと思ったんだけどさ、Aの席と離れてた所にいたから中々話すタイミングなくて」
「そうだったんだ…来てたんだね、気付かなかった」
「あ、ひでぇな!俺はAに会えるの久々だし楽しみにしてたんだけど」
「嘘嘘冗談!私も楽しみにしてたよ!風間くんも元気そうでよかった」
当時はいたずら好きのただの男子学生だった彼だが、やはり10年という歳月は長かった。久々に再会した元恋人は、オシャレな細身のストライプのスーツを綺麗に着こなし、昔は明るかった髪も今では黒く染め、笑った顔に昔の面影を感じるものの、きちんとした大人になっていてなんだかそれが嬉しく思えて思わず微笑む。
「Aは今何やってんの?」
「私は普通のOLだよ。ただの事務職」
「そうなんだ。服とか好きだったし、てっきりそっちの道に行ってるのかと思った」
「いやー行きたいと思ったことはあったんだけど、中々ね」
「なるほどね。でも今もまだ興味はあるんだろ?」
「うん、もちろん。ファッションショーとかはジャンル関係なく機会があったら行ったりして楽しんでるよ」
「あ、それならさ!俺、実は今…」
そう言って風間くんはジャケットの胸ポケットから名刺入れを取り出して、一枚私に差し出した。
「…え?風間くんってここで働いてるの!?」
その名刺の会社は誰もが知っている超有名ファッションブランドだ。高級ブランドであるため中々安月給の自分には手の届くブランドではないが、化粧水や香水などのコスメでは今もお気に入りが多数あるほどお世話になっている。
「俺は東京の本社勤務だから店舗では働いてないけどね。今度さ、東京で新作お披露目のショーがあるんだ。よかったら来ない?招待客限定だから中々見れる機会ないと思う」
そう言って風間くんは鞄から招待券を取り出すと私に差し出した。その招待券を見て一気にテンションが上がる。彼の差し出した招待券を受け取ろうと手を伸ばした。その時
「何やってんの?」
後ろから伸びてきた手によって、その伸ばした手が招待券を受け取ることはなかった。
「…え?何でここに」
そこには、眉間に少し皺を寄せた隆がいた。
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作者名:柴咲華 | 作成日時:2021年8月10日 23時