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「Aはどうする?2次会行ける?」
「あ、うーん…」
友人からのその声掛けに即座に返答ができなかった。
高校時代の同窓会。1次会が終わり丁度お店を出たところでそれぞれが「次どうする〜?」なんて2次会の参加者を集っていた。約10年ぶりのクラスメイトたちとの再会は自分が思っていたよりも楽しいもので欲を言えばそのまま少しだけ2次会に参加したい気持ちがある。昔話に華を咲かしながら初めてみんなで交わすお酒は大人になった証でなんだか心がくすぐったい。まだ子供だと言われていた時代をここに居たみんなで過ごしていたのかと思うとなんとも不思議な気持ちになった。10年と言う歳月を語るには1次会の時間だけではどことなく物足りなさを感じてしまうのは皆も同じようだった。けれど、
「…やっぱり私はここで帰ろうかな…」
「あ、マジ?彼氏厳しい感じなの?」
「ううん、全然。優しいし今日も2次会あるかもって伝えてきたから行けないことはないんだけど…」
「え、それなら後1時間だけ行かない?私もA居なかったらつまらないしさ」
そんな有難いことを言ってくれる友人に目を向ければ両の手の平をぴたりとくっつけて顔の前に出し、「ダメ?」なんて女相手の私に上目遣いで言ってくる。私は学生時代から彼女のこの"おねだり"に弱かった。それに彼女とは頻繁に会えるからいいけれど、確かにこの機会を逃したらまたしばらく皆と会えなくなるもんなー。なんて頭の中で考えを巡らせた。今すぐ帰るか、1時間だけ残るかの選択。左の腕時計を見ればまだそんなに遅い時間でもない。1時間行って帰れば大丈夫かと思い友人に「わかったよ」と2次会参加の意思を伝えた。
伝えた直後、すぐに隆に連絡をしようと携帯を開くと彼からつい数分前に一件の不在着信が入っていた。
「あ、ごめん。やっぱりちょっとまってて」
いつも基本的にはメッセージでのやり取りが多い隆が電話をかけてくることは珍しかった。加えて今日私が同窓会に参加していることを知っているはずの彼が電話?何か急用かと思い、皆から少し離れたところで折り返すも電話は繋がらない。どうしたもんかと考えるが、いつもと違う彼の行動が気になって仕方ない。一度気になってしまうととことん気になってしまい、既にこの後2次会を楽しむ余裕は私にはなかった。やっぱり今日は帰ろう、そうしよう。そう思い直し友人に声をかけようとした時、「A」と小さく私の名前を呼ぶ声が聞こえて後ろを振り返った。
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作者名:柴咲華 | 作成日時:2021年8月10日 23時