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「ぷぷっ!プハハッ!ウケる!」
「テメェ…柚葉笑うな!」
「っはは!ごめんごめん!なんだそう言うことか」
彼女はニヤリと不気味な笑みでオレを見た。その顔は全て察したとでも言っているかのようだった。皆まで言わずとも察してくれるなら有難い話だ。柚子は手にしていた仕事道具をカバンにしまい立ち上がると、コーヒーメーカーから2つのマグカップにコーヒーを注ぎ、少し離れたところに座っていたオレの近くの椅子に腰掛けた。そして1つのマグカップをオレの目の前に差し出した。ほろ苦い香りが一瞬にして狭い仕事場を包み込む。
「八戒の迎えまでまだ少し時間があるので聞いてあげましょう」
「……はは、頼もしい限りだな。お前は嘘をつかないし」
「任せてよ。それで?Aが"いつか"の同窓会に参加するわけね。三ツ谷が心配するくらいだから中学ではないでしょ。高校か…大学?」
「…すごいなお前。探偵とか向いてるんじゃないか?」
「まさか。三ツ谷の考えてることなんてAのことか家族か仕事でしょ?素人でもわかるよ。それで?答えばどっち?」
「あ、ああ…高校」
オレがそう答えればなんでもお見通しの彼女は、小さくため息をついてから「アンタが言いたいこと全部わかったよ」と呟いた。
「要するにAが高校の同窓会に参加するけど、そこにはきっとAの元カレもいるし、久々の再会でどうにかなっちゃうんじゃないかって心配ってことか」
「……9.5割正解だな」
「9.5?あとの0.5割は?」
「同窓会に参加するんじゃない」
「え?」
「今、参加してるんだ」
「…なるほど。道理でさっきから全く手が進んで無いわけだ」
そう言って柚葉はオレの手の下にあるデッサン用のノートに目を向けて笑った。さっきからというより今日一日ほとんど手がつかない状態で全く仕事にならなかったしこの後も続ける気すら起きなかった。
「ま、一般論で言うなら久々の再会のその雰囲気でテンション上がって親密な空気になってしまう人もいるとは思うけど…」
「だよな…」
「けど三ツ谷の彼女はあのAだよ。三ツ谷はAのこと信じられない?」
「!!っ違う!信じてるに決まってんだろ!」
ガタンと大きな音を立てオレが立ち上がると、柚子は少しびっくりした顔をした。大きい声を出してしまったことに慌てて謝れば「いつも冷静な三ツ谷が取り乱すなんて珍しい」そう言って彼女はまた笑った。
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作者名:柴咲華 | 作成日時:2021年8月10日 23時