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怒ってしまったであろうその背にごめんと心の中で謝った。

彼に「好きだ」と頭がクラクラしそうなくらい熱っぽい視線で言われて、それに対して首を縦に振った日からちょうど1ヶ月経ったくらいの時だった。
何度か言われた「ねーA。チューしよ」なんて可愛らしく甘えてきた彼に首を横に振ったのはこれで何回目のことだろう。
拗ねて背中を向けられてしまうのは毎度のことだったが「ごめんね」と小さな声で謝れば、「早くしねーと無理矢理するからな」なんて冗談めいたことを言ってくれ、その度に怒ったわけではなかったと安心していた。

今日もいつも通り、いつもの謝罪を口にする。
けれど今日の彼はいつもと違った。私の顔を見ずに立ち上がると「お前が本当にオレのこと好きなのかわかんねーよ」そう言って、荒々しく私の部屋を飛び出して行ってしまった。

ついに彼は怒ってしまったようだった。


追いかけて引き留めたい衝動に駆られたけれど、追いかける資格はないため何もできない。唖然とその場に立ちすくむしかなかった。すると直ぐに外からバイクのエンジン音が聞こえ、あーやってしまったと頭を抱えた。


正直求められることは嬉しかった。
私だって彼に触れたいと思ったことはある。拒んでしまった今でさえそう思ってる。だけどたまにこの人が醸し出す妙な色気というやつに、私はいつも情けないくらい顔を赤らめてしまい心臓はあり得ないくらい激しく動いた。至近距離で見つめられただけでもそんな状態になってしまう私が、彼とゼロ距離なんて無理だ無理だ無理だ。恥ずかしすぎて冗談なしできっと私は死んでしまう。
私は佐野くんに殺されてしまう。


友人にこの話をすれば、「中3にもなって何子供みたいなこと言ってんの」と怒られた。自分でもそう思う。そう思うけれど中学3年なんて子供だ。子供で何が悪いんだ。そう反論すれば「キスなんて皮膚と皮膚の接触じゃん。キス如きでAみたいに一々大騒ぎしてる子他にいないよ?佐野くんが不憫だ」電話越しでもわかるほどにうんざりとした声で友人は言った。

皮膚と皮膚の接触?
そんなもんなの?
キスってそんな何でもないような行為なの?


彼女の言うことが頭の中で駆け巡る。
思わず電話を切った直ぐ後にそのままネットの検索画面に【キス 意味】と打ちこんだ。


kiss---きす---
相手の頬、唇、手など肉体の一部に自分の唇をつけて吸うこと。 くちづけ。


検索結果を見て思う。
皮膚と皮膚の接触ではないと思う。

…→←Please kiss me【佐野】



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作者名:柴咲華 | 作成日時:2021年8月10日 23時

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