Please kiss me【佐野】 ページ1
自分の性格は自分が1番わかってる。
どうせ私はお堅い女。そしてとてつもなく面倒くさい女だ。
「なぁ、いいじゃん。ダメ？」
「ダメったらダメ。絶対にダメ」
「オレのこと嫌いなの？」
「大好き」
「だったら何で？」
「大好きすぎて恥ずかしい」
「……」
「…私の心臓が止まっちゃうから」
「…可愛いこと言うね。でもわかってんの？そう言うのが余計そそるんだけど」
「ちょっと…そう言うこと言わないで」
「Aが悪い。なぁ、キスだけ！それ以上は絶対何もしない！」
「そ、それ以上って！何考えてんの！ありえない！」
「ありえなくねーよ。お前はオレの彼女なんだから」
「そ、それはそうだけど。本当に佐野くんといるだけでも心臓おかしくなりそうなのに、キ…キスとかそんなんしたら私ほんとに死んじゃう…から」
「もしAの心臓が止まったらオレの心臓あげるから大丈夫だよ」
「…何言ってんの？そしたら佐野くんが死んじゃうじゃん」
「え？いいよ？」
「は、？」
「いいよ？だってオレ死んでもいいもん」
Aが死ぬくらいならオレが死ぬほうがいい。そう言った彼は笑顔だった。とてつもなく可愛い笑顔だった。そんな彼を見て次第に眉間に皺が寄り、目は細まり不機嫌な顔に自分がなっていたことは鏡を見なくてもわかっていた。だが、冗談でもそんなことを笑顔で言い放つこの人が許せなくてその顔を崩さないままじっと睨む。彼は呑気に「ブサイクな顔すんなよ」と笑ってたけど、今はなんて言われてもどうでもいい。ブサイクでもなんでもどんとこい。
大好きだったはずのこの太陽みたいな屈託のない笑顔はいつも私を笑顔にしてくれた。彼が笑えば私も笑う。彼が悲しければ私も悲しむ。私の顔は彼の表情によってコロコロと変わっていたけれど、今日ばかりは別だった。大好きな彼氏の大好きな笑顔をほんとに憎いと思ったのは初めてだった。
「……それなら、尚更ダメ。私は佐野くんに死んでほしくない」
「じゃあキスして。じゃないとオレ死ぬよ？」
「……最低」
「オレに死んでほしくないんだったら、はい」
「…はい！じゃないよ！」
「ほら、こっちこいよ」
「…行きません」
「はぁ…彼女にこんだけキスを拒まれるオレってなんなの？」
「…拒んでるとかそういうんじゃなくて、恥ずかしい、無理なの」
「無理とか言うな」
「無理なもんは無理」
ここまで言えば彼はわざとらしいため息をついて「もういいよ」と背を向けてしまった。
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作者名：柴咲華 | 作成日時：2021年8月10日 23時
