氷上に咲く花と僕。 (ページ38)

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衣装みたいにキラキラした感じの曲。

聞いたことがある。

Aは曲が始まると試合の時につくる表情とはまた違った顔になって滑り出す。

そして氷一面がクリスマスツリーのように飾り付けされたように、明るく花が咲いた感じになる。

We wish you a Merry Christmas

We wish you a Merry Christmas

We wish you a Merry Christmas

And a Happy New Year

観客もみんな・・・・もちろん僕もAに釘付けになる。ホントにかっこいい。

今日だけってこういうことだったんだ。

全日本って選手は忘れがちなんだけど、毎年毎年クリスマスと日程が重なっちゃうんだよね。

曲の感じもよく表現している。
優しくて柔らかくて幸せな感じ。

トリプルアクセル

トリプルサルコウ

トリプルフリップ＋トリプルトーループ

ジャンプも完璧。しかも滑らか。

『We wish you a Merry Christmas』

確かイギリスの伝統的なクリスマスキャロルだったはず。家族との幸せなクリスマスを願った曲。

僕は薄々気がついていた。

Aが辛そうな顔をするのは家族の話をするときだって。

そんな彼女がみんなが家族と幸せなクリスマスを過ごせるように願いを込めて曲にのせて滑っている。

Glad tidings we bring

To you and your kin

Glad tidings for Christmas

And a Happy New Year!

彼女の演技は人を引き込む魔法を持っている。

僕はその魔法にかかってしまったみたいに見入ってしまった。

滑り終わったAは清々しそうで本当に満足したような顔をしていてきれいだと思った。

もちろん会場からの拍手は鳴り止まなかった。

初めて人の演技を見て感動したかもしれない。

気がついたときには僕の目からは涙があふれて止まらなくなっていた。

「なーに、今から滑んのに泣いてんのよ。」

帰ってきたAが声をかけてきた。

「早く行かないとお客さん待たせてるよ？」

そうしてまた笑った。
さっきと同じ表情。
Aが素直になったときの本当の笑顔。

分かった。

『他の人と話してるの見たり？』

『笑顔が好きっていうのもあるよね』

いつかの佳菜ちゃんの言葉がよみがえる。

僕はAのことが好きだ。

「いってらっしゃい」

この瞬間から僕の恋が始まる。

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