氷上に咲く花と僕。 (ページ28)

今日:7 hit、昨日:1 hit、合計:164,712 hit

story.27 ページ28

・

「おーい、Aー？」

草太くんに名前を呼ばれてAはやっと、
「どうしたの？」

と言った。

明らかにゆづくんと話しているときと僕と話しているときのAの顔は違っていた。
なんかこう優しくて柔らかいような感じで。

僕と話しているときなんかほとんど笑顔を見せないし、あんなに口も悪いのに。

「Aもゆづくんの応援行くよね？」

当たり前でしょ。

そう言うとさっき買ってきたペットボトルに口を付けて一口飲んだ。

「分かった！じゃ、僕先生に呼ばれてるから！
じゃあ明日ねー！」

え！草太くんいなくなるの？
Aと２人っきりってすごく辛いんだけど！

「座れば？」

気がつけばAは近くのベンチに座っていた。

「宇野くんってミルクティー好きなの。」

「………ばれてたの？」

「当たり前でしょ。日本人の観客少ないのに試合前にミルクティー持ってくる人なんて早々いないわ。しかもあの幼稚園児が書いたような『fight』。それに宇野くん毎日あのミルクティー３本飲んでたしね。」

隠してたつもりだったのに完璧にバレてた。

「迷惑だった？」

僕はAの顔を伺うようにそう聞いた。
何となくAってそういうの嫌いかもしれないって思ったんだ。

するとAは少し考え込んだ表情をした。

やっぱり迷惑だったんだ。

いくらAでもここまで迷惑なことされると呆れて何も言えなくなったんだ。

「ごめん、やっぱ「嬉しかった。」

え？」

「あの時すごく緊張してて、またショートみたいな演技しちゃったらどうしようとかって思ってまともに練習すら出来てなかった。

けどミルクティーもらって応援してくれる人がいるって思えて元気でた。
その結果銀メダルがとれたわけだし。

だから宇野くんには感謝してる。

………………ありがと。」

Aがこんなこと言ってくれるなんて思っていなくて、今きっと、嬉しかったり恥ずかしかったり色んな気持ちが混じって顔が赤くなってるんだろーな。

でも僕だって嬉しい。

だってAが今、さっきゆづくんと話してた時みたいな顔をしているから。

………やっぱ笑ってたほうが可愛いのにな。

そうAに伝えたいけど恥ずかしすぎて言えるわけがない。

Aのこと考えてると頭がぐるぐるしちゃって頭がおかしくなりそうだ。

「帰ろっか。」

恥ずかしさを隠すためにそう言い、Aよりも一歩先を歩くことにした。

・