1歳の誕生日 4月1日 1歳 ページ11
まだ肌寒い春、俺はAに厚着をさせてお墓へと向かった。
今日は、Aの誕生日だ。
早産だったことと、免疫異常があると言われたこととで心配は多く、入院することも度々あったが、すくすくと育ってくれた。
誕生日を迎えることは、嬉しい。
しかし、俺にとっては手放しで喜べるものでもない。
それは、父さんと母さんが亡くなった日を意味するからだ。
外を歩いていると、嫌でもあの日のことを思い出す。
お墓に行く前に、お供え用の花を買いに花屋に入ると、店員がすぐに声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ〜、どのようなものをお探しですか?」
「あ、両親の命日で。」
「そうなんですか。お供え用ですよね。」
正直、花のことなんて興味もないし分からないから、店員に任せることにした。
「あー、あー!」
「ん?どうした?」
抱っこしているAが、指を指して訴える。
「あ、このお花がいいの?
このお花も入れますね。せっかくなのでお父さんの方もお好きなお花をお選びください。」
「いえ、この子は歳の離れた妹なんです。」
言いながら、店内を見渡す。
「すみません、この花でお願いします。」
「はい。少々お待ちください。」
作ってもらった花束は、いかにもお供え用というものではなく、綺麗なものだった。
Aと俺が選んだ花束が、いい感じにアクセントになっている。
「ありがとうございます。」
お金を払い、お礼を言って、店を出た。
お墓は、季節がらガランとしていて、俺らの他には誰もいなかった。
父さんも母さんも、Aの成長を見届けたかったんだろうと思うと、涙が零れてくる。
言いたいことは、ほとんど伝えられないまま、逝ってしまった。
今更、ということは重々承知で、それでも心の中で語りかける。
Aが無事に1歳の誕生日を迎えたこと。
最近ハイハイをするようになって、少し大変なこと。
仲間に恵まれたこと。
長々と報告していると、Aがくしゃみをした。
体が冷えないうちに、家に帰らないと。
また来るから、と心の中でさよならをし、スマホを取り出した。
「もしもし、まっすー?今から帰る。」
『りょーかい。もう準備できてるよ。』
「ありがと。」
これから、Aと祐也くんの誕生日会だ。
しんみりした心に一度蓋をして、家へと帰った。
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作者名:作者 | 作成日時:2018年8月26日 20時