君のとなりで (ページ10)

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「もし嫌じゃなければ、話してもらえませんか？」

温かな笑みで尋ねる慎太郎さんからは、いつもこのようにして樹や風磨と接しているのであろうことが窺えた。同じ立場になると2人が彼を信頼する気持ちがよく分かる。言葉ではうまく表現できないが、彼には不思議な魅力がある。

「きっかけは、アイツが俺の教え子の主治医になったことでした。担任と主治医という立場で一緒にその生徒を支えていくうちに距離が縮まって、そういう関係に。
その後4年間交際を続けていたんですが、次第に思うようになっていったんです。俺はアイツから、結婚して子どもが産まれてという幸せを奪っているんじゃないかって。お互い適齢期でしたし。
そんな頃でした。アイツの両親に呼び出され、別れるように頭を下げられたのは。下手にキレられるより、丁寧に頭を下げられる方がよっぽど堪えましたよ。
普通に女性と結婚できないなら、大我に病院を継がせることは難しくなるとも言われました。それを言われたら、別れる一択でしょう？アイツが病院を継ぐためにどれだけ苦しんでいるかも、努力しているかも、全部隣で見てきたんだから。一時の気の迷いでそれを棒に振るなんてことはして欲しくない。
今は理解できなくても、大我の将来を考えたらこれがベストだと思うんです。
すみません、長々と語ってしまって。」

「そうだったんですか。いつだったか、北斗と飲んだとき、いつになくアイツが泥酔したことがあったんです。そのときに延々と、大我から「お前は自由でいいよな」って言われたと話していて。仲違いの、原因もそういうところなんですかね。
やっぱり、親の跡を継ぐって難しいな。」

「親の跡を継ぐって難しい。」その言葉は妙に重みを帯びていて、もしかしたらこの人も同じ荷物を背負っているんじゃないかと直感した。

「慎太郎さんも、跡を継いでお仕事をされたりしているんですか？」

「えぇ、まぁ。俺も、ゆくゆくは施設を継ぐんだろうという空気感のなかで育ちました。当然の流れで資格を取って働き始めましたが、途中でこの仕事向いてないんじゃないかと気づいても、後戻りできないんですよね。だから、向いてなかろうがそのまま進むしかない。それって結構キツいんですよ。支えがないと折れちゃうくらい。」

大我にとって、俺は支えになれていたのだろうか。目の前の優しいこの人の支えはあるのだろうか。
いま、大我のことを支えてくれている人はいるのだろうか。

「大我、自分の幸せは自分で決められると思います。」

その一言に背中をグイと押された。