君のとなりで (ページ8)

今日:21 hit、昨日:13 hit、合計:12,056 hit

- ページ8

事態が急展開させたのは、2日後の朝に入った１本の電話だった。電話の相手は樹と風磨が暮らす施設の職員、慎太郎さんだった。樹が虫垂炎で入院することになったらしい。そして、入院先の病院名を聞いた俺はギョッとした。

樹が入院したという「京本総合病院」は、大我が働く病院、いや、大我が跡を継ぐ予定の病院だったからだ。

その日の放課後、俺は樹が欲しいと言った勉強道具を持って病院へと向かった。大我に遭遇する可能性を考えると足は重たくなるが、やっと目標を明確にして走り出したヤツから勉強道具を求められたら、断る選択肢はない。数年前もこんなことをしていたなと、先日偶然聞いた名前を思い出し、一番上にあった問題集に「無理は禁物！！主治医の言うことをちゃんと聞くこと！！！」と書いた付箋を貼った。どこかの誰かのように、消灯時間が過ぎても勉強をしていたら没収されたなんてことがないように。

病院はAが入院していた頃よく顔を出していた頃と変わりなく、少し懐かしさを感じた。

聞いていた病室に近づいたとき、部屋から病院とは似つかわしくない楽しそうな声が聞こえた。

「どう？可愛い看護師さんとかいる？」

「いや、いると思うじゃん？白衣の天使。
思いの外、年齢層高めよ？」

その声はよく知っているもので、男子高校生の脳内に呆れて溜息がこぼれる。まぁ、風磨としょうもない会話をできるくらい元気ということだから良しとするか、と俺は病室に入った。

「お、高地！持ってきてくれた？」

俺に気づくなり声をかけた樹は、ちゃんと「先生」をつけろ、と側にいた慎太郎さんに小突かれている。

「持ってきたよ。その代わり、これちゃんと守れよ。休むときはちゃんと休む。」

しっかりと付箋を見せつけるように机に持ってきたものを置くと、風磨がそれに気づくなり吹き出した。

「！の数に高地の圧を感じる。」

「こえー、ハマの番長が顔を出してるわ。」

再びキャッキャと楽しげな二人に、「ここは病室だぞ」と注意する慎太郎さんの目は、とても優しかった。

さて、仕事も終わったし、大我に遭遇しないうちに早いところ立ち去ろうかと思ったときだった。

「楽しそうだね。…え？」

背中から聞こえた、間違えるはずもない声。一方的に別れておいて、それでももう一度聴きたいと願った声だ。

そして次の瞬間、頬がジンと熱くなったかと思うと、強く抱きしめられていた。

「パーじゃなくてグーでくるのかよ」の言葉も、「人前だぞ」の言葉も、久々の温もりに溶けていった。そのぬくもりに絆されそうになるのを必死で堪えた。