K 後悔 ページ7
その名前を久々に聞いたのは、突然のことだった。
「そういえばさ、鈴木先生ってどうしたの?最近休んでるけど。」
「あぁ、メンタルやられちゃったらしいよ。」
定時後の時間の流れが穏やかになった職員室で、隣の先生達がそんな話を始めた。
「いま、メンタル病む先生ほんとに多いよな。
前の学校でも、まだ2年目くらいの優しくて真面目な感じの先生が、1年休職した後に辞めちゃったんだよ。すごく良い子だったんだけどもったいない。」
「それってもしかして、国語のA先生?」
聞き耳を立てていた訳ではないが、言葉が耳に飛び込んできた。それと同時に、3年前の秋に送られてきた、教員採用試験に合格したという報告のメールが頭に浮かぶ。何があったんだ?
「そうそう。原先生、前の学校で被ってたっけ?」
「1年だけ。やっぱりパワハラ?」
「表向きは持病の悪化ということにはなってるけど、みんな亀山先生のパワハラのせいだって言ってるよ。
俺も前、印刷室で怒鳴られてるの見て、仲裁したことあるし。」
「あー。亀山先生、女帝って感じだもんな。国語科は人間関係難しそうだったし。
あぁいう穏やかで反撃してこなそうな子は、良いターゲットになっちゃうんだよな。」
心拍数がどんどん速くなる。ある日彼女が学校を休みがちになったときのことも、病名を告げられたときのことも、見舞いにいったときにひっそりと泣いていたときのことも、高校の先生になりたいと告げられたときのことも、すべてがついこの間のことのように浮かんでくる。
彼女はいま、どうしているんだろう。辞める前に、いや、パワハラで苦しんでいるときに、どうして連絡をくれなかったんだろう。彼女のことだから、もう担任じゃないからと遠慮したんだろうか。だったら、俺が飲みにいこうとか連絡をしていれば。
いてもたってもいられなくなり、3年前に送られてきたメールの送信元に、祈る気持ちでメールをしてみたが、メールアドレスが変わったようでエラーを示すメールが戻ってきただけだった。
それならば、Aの高校時代の主治医だった彼に連絡すれば何か分かるかもしれない。
いや、このように都合良く彼を使うなんて許される訳がない。4年も付き合っていたのに、一方的に別れを告げ連絡を絶ったのだから。彼の将来を考えてのことと言えど、傷つけた事実に変わりはない。
大我のことだ。きっとAの力になってくれている。俺にできるのは、そう信じることだけだった。
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作者名:じゃむ | 作成日時:2024年1月9日 21時