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時刻はもうすぐ6時半になる。
いくらアパートと職場が近いといえど、7時の就業時刻ギリギリだ。
別に、寝坊した訳ではない。むしろ、あまり眠れなかった。昨夜からずっと腹痛に苦しめながら、トイレと友達になることを強制させられていたからだ。
樹くんの進路が決まるまでピンと張っていた気が、緩んだのかもしれない。
高校時代からの付き合いの潰瘍性大腸炎は、こうして時々私を苦しめる。腹痛とか下痢とか血便とかだけじゃない。体調のせいで頑張りたくても頑張ることすらできないことも、入院しなければいけないときがあることも、平日に検診にいかなければいけないことも、病状によっては人と同じように食事ができないことも、すべてが私の苦しめる原因になる。
「この病気は長く付き合わなければいけない病気だけど、ちゃんと治療したりコントロールしたりすれば、学校に通うことも働くこともできるから。」そう言った昔の主治医の言葉を信じるには、色々経験をし過ぎてしまった。
治まりますようにと祈り、ふらつく脚に喝をいれながら、まだ朝だというのに既に暑い外へと出た。
「Aさん、顔色ヤバくない?」
フロアにつくと、身支度をしていた樹くんが指摘してくる。病気のことを伝えてなくても、樹くんは度々私の体調不良を言い当てていた。担当になる前に、彼の母親のことに関する記録は確認してある。きっと、その経験からくるものなのだろう。
「大丈夫大丈夫。外、暑かったからね。樹くんも学校行くとき気をつけて。」
心配させるのも不安にさせるのも避けたい。それに、これくらいで仕事を休む訳にはいかない。「体調管理も仕事のうち」という言葉に理不尽さは感じていても、休まずに出勤することが評価に繋がり、その逆も然りであることは紛れもない事実だ。
「それブーメランだから。慎太郎呼んでくる。」
そこからは早かった。もともと一年前からお世話になっている主治医の北斗先生と、慎太郎さんが幼馴染みということで、すぐに慎太郎さんから北斗先生に連絡をされ、私はタクシーに押し込まれた。
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作者名:じゃむ | 作成日時:2024年1月9日 21時