君のとなりで (ページ2)

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Aさんに進路希望調査を突きつけてから1週間が経った。

二段ベッドに寝転がりながら、毎日のようにぼんやりと進路希望調査を眺めるものだから、元々よれていたペラペラの紙はさらによれた。それでも、「就職」の文字に投げやりにつけられた丸の位置は動いていない。

自室の窓からは、俺の気持ちとは裏腹に、明日から夏休みだという小学生の浮かれた声が聞こえてきた。

「お前まーたそれ見てんの？」

ノックも無しに空いたドアから、同じ施設で育った同室の幼なじみ、ついでに高校のクラスまで同じの風磨が、少し呆れたような顔で入ってきた。

「そういうお前はどうなんだよ。決まってんのか？」

「ちゃんと決めましたぁー。
結局国公立1本で、滑り止めの私立は受けない。
前田からは浪人したらどうするんだとか、奨学金を借りれるんだから私立も受けろとか言われたけどな。」

前田というのは、風磨の担当職員のおばちゃんだ。

わーわーうるさい上に、俺らみたいなタイプが好きなのかしょっちゅう絡んでくるから、俺も風磨も辟易している。

「つーか高地は？何か言ってた？」

「いや、案外あっさりしてたぞ。
覚悟決めて頑張れって。」

なんだよそれ。俺の進路希望調査は突き返した癖に。

「高地が心配してたぜ？樹も施設の職員とちゃんと相談してんのかって。」

「お前だって、前田にロクに相談してねーくせに。」

「まぁな。ってか、アイツがどう言おうと俺の人生だし。決める権利は俺にあるだろ。」

そう言い切る風磨は、遥か先を歩いているようで、なんだか急に置いてきぼりを喰らったような気分だ。

「シケたツラしてんな。とりあえずアイスでも買いに行かね？夏だし。」

「こんな暑いのに？」

と言いつつも、風磨の優しさを無碍にはできず、俺らは部屋を出た。

ダイニングに続く廊下を曲がりかけたとき、前田とAさんの話し声が聞こえて、ふいに足を止めた。

「A先生、樹の進路どうするつもりなの？
あなたの担当の子なんだから、あなたがちゃんと決めてあげないと！
あなたがやらないことで迷惑を被るのは樹なんだから。」

「すみません、わかりました。私からも声をかけてみますので。」

Aさん、前田から吠えられても淡々と返答するのか。というか、俺らが聞くかもしれないところで、よくそんなに吠えられるな。

なんて感想を持ちながら、風磨と陰からこっそり覗いていると、後頭部に衝撃が走った。

「盗み聞きなんて趣味が悪いぞ。」

振り向けば、施設の職員で兄貴分みたいな存在の慎太郎が立っていた。