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「じゃあもうそれについては良いです……なら二人に付いて行っているのは、未来でその、知り合っておくと本の捜索で有利になるから、ですか?」
「勿論それも一割くらい有りますけど……」
一割!? 一割しか無いんですか!?
上木が心の中で突っ込みを入れる中、山辺が続けた。
「ファンとしてはこの推しが大活躍する話、見ない訳にはいきませんので!」
其れが九割か―。
と上木は思った。
否きっと読者の方は山辺を分かって呉れるだろう。私は分かってくれると信じている。
「あーー、そう云えばさっき本番は此処からって言っていましたけれど、それって詰まり…」
上木は話題を逸らした。これ以上、例えば「活躍ってどんな?」なんて聞いたらとんでもないことになる気がしたからである。
「はい、此れから更に厄介な事に成りま……あれ?」
とここで、上木は不自然な山辺の心情をキャッチする。
(へ? は? あんたまさか…!)
上木がトリップに当たり得た「卓越した心情把握能力」は、時々このように相手の心理を読み取ったり、そこまで行かずとも相手の今感じている感情を汲み取ることが出来る。
然し自分で制御出来る訳ではなく、偶にこのように耳に入ってくる程度だ。
更に言うと、このように相手の心情はわかっても状況が分からないこともある為、中々使い勝手が悪いと上木は思っている。
「真さん?」
答えの途中で歩みを止めた山辺の顔を、上木が不思議そうに覗き込んだ。
反応がないので山辺の視線を追うと、其処には外の出口へと走る、一匹の”三毛猫 ” 。
成程、真さんの心の声の原因はあの猫か。
上木は一人納得した。
「あら、こんな所に猫が、可愛いですね」
正直な感想を言うが、山辺は相変わらず止まったままだ。
如何したのだろう? そんな固まるほど真さんは猫好きだっただろうか?
そう上木が思っていると、山辺が唐突に、その三毛猫に向かって走り出した。
え?! ちょまっ!
上木は驚きに一瞬固まるも、
「真さん!?」
そう叫び、自分も後を追う。
山辺は上木の叫びなど気にもせず走り、三毛猫を追って出口から外へと飛び出した。
外に出て、尚も山辺は三毛猫を追って走る。
その後ろ姿を追いかけながら、上木は訳がわからずに居た。
何故、山辺はこんなに必死に猫を追いかけて居るのか。
何故、三毛猫を見つけた時あんな事を心の中で言ったのか。
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作者名:ミキノ・乃 | 作成日時:2020年6月19日 14時