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「用心棒さん、たすけてください。仕事が無くて今日泊まるところも無くて死んでしまいます」
福沢はいま受話器と店の奥からの二重の声が聞こえている事だろう。
なんで態々電話にしたんだよ。そしてやるなら本気を出そうよ、棒読み止めろ。
と乃風は思った。
「…………」
福沢は無言である。当然だ、こんなことをされたら誰でも反応に困る。
「死んでしまいます?」
江戸川は繰り返した。疑問形である、何故疑問形なのかを聞いてはいけない。
「……では宿泊施設を紹介し」
「次の仕事が無くて死んでしまいます」
さすがに無理だよ。
と乃風は思った。正直、この大人が見ず知らずの他人のためにそこまでしてくれるとは思わなかった。
抑々、ここまで取り計らってくれただけでも十分な親切である。もう福沢が何かする義務は無いように思われる。
然し。
「では……次の仕事に一緒に来い。俺には無理だが、先方で人員を探していたはずだ。仲介しよう。それで善いか?」
福沢から出てきた言葉は拒否でも罵倒でも、ましてや説教でもなかった。
本当に、意外と優しいんだな。
乃風は驚き一瞬こう思ったが、すぐに自分の考えを否定した。
優しい、福沢の行動は、この言葉だけで表せるものでは無い。この人を動かすのは、きっと只の親切心だけでは無い。
確かにこの行動だけを見れば優しさと、親切が見える。然しその根底にあるものは恐らく…
所謂、正義と言われるものなのではないのか。
「ほんと!?」
少年の、嬉しそうな声が店に響いた。
「其れじゃあ早速行こう!先ずは荷物を取りに__いやその前に手洗いに__いやその前にちょっとしょっぱいものが食べたいな!もう口の中が甘くて甘くて__ちょっと上木さんこれ持って!あげ菓子が隣で売ってたよね買ってくるから、いやむしろ乃風君が買ってきて!あーのど乾いた、おじさん、お茶頼んできて!」
江戸川が満面の笑みで言った。
乃風は口をあんぐりと開ける。
何 故 俺 ら を 巻 き 込 む ?
福沢さん、ちょっと二人でこの人を山に埋めませんか?
「ちょ、テツ落ち着いて、駄目ですよそんな物騒なことかんがえちゃ」
上木が乃風の方を見て小声で言った。
「いや、良いんだよ理子。思うだけならタダなんだから」
「タダじゃないから、私の心が削られていきますから。私分かりたくなくてもどんなこと思ってるのか分かっちゃいますから!」
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作者名:ミキノ・乃 | 作成日時:2020年6月19日 14時