第九話 もう帰りたいんですけど…… ページ19
どうしてこうなったのだろう。
と乃風は思う。
目の前には「もう歩けない」と駄々をこねる江戸川と、其れを宥める福沢、ニコニコと眺める山辺、其れを呆れ顔で見つめる上木。
何故自分達は、未だ此の着物姿の男と空気を読まない少年と一緒に居るのだったろうか。
一瞬わからなくなり、乃風はたった数時間前の記憶を辿った。
あの後、そう、甘味処で山辺が江戸川の残した餅を食べ始めた後の事だ。
「なあ少年」
「んんむ？」
着物姿の男こと福沢が、江戸川に話しかけた。
乃風は其の会話を聞くこともなく聞いていたのだが、一つ分かったことがある。
「大っ嫌いだよ。訳が分かんないもの」
「だからあ、見たら判るでしょ」
「大人は全く何考えてるかさっぱりだよね」
この少年は、自分が普通だと思っている。
江戸川は乃風よりも優れた観察能力、洞察力、推理力を持っている。其れを乃風は江戸川が事件を解決した時点でもう悟っていた。
神なんてものに貰ったこの頭脳でさえ、あの時点で分かったのは江戸川の八割程度だったのだ。
この少年には何年たっても敵わない。乃風は本気でそう思った。
だが、本人は其のことに全く気付いていない。
自分が特別だと言う事が分かっていないのだ。自分が知っていること、気付いていることは周りも分かっていると思っている。
だから言われるまで事件の真相を話さなかったし、先程から大人が説明を求めるのに対し訳が分からないと言ったようなことを言う。
原因は恐らく、江戸川の言葉を聞く限りは死んだ両親だろう。
江戸川は会話の中で、両親が死んで田舎から出てきた、と言った。
江戸川が元警察官だった父親の名を出した時の福沢の反応を見て、上木は少し意外そうな反応をしていた。
人よりも心情把握能力が他人よりも優れている上木が意外な顔をした。其れが差すことは一つ。
福沢の抱いた感情は、驚きや衝撃であるという事。
福沢が名前を出されて衝撃を受けるような人物。
どんな人かは想像がつかないが、警察官だったと言う事から数々の難事件を解決したのではないのだろうか？
それほどの頭脳を持つ人物。
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作者名：ミキノ・乃 | 作成日時：2020年6月19日 14時
