第八話 さっきまでのシリアス展開は何処に行ったよ! ページ17
何だろう、この状況は。
上木は一人思った。
否、他の人も同じことを思っているはずだ。少なくとも目の前で善哉を食べている江戸川と其れをニコニコと見ている山辺以外は。
あの後、江戸川が
「ねえ、置いていかないでよ。さっきご飯奢るって言ったよね。云いましたよね? 其れは好きなところで好きなものを注文して好きなだけ食べても善いって意味だよね? ご飯食べながら僕の置かれた状況と解決策についてじっくりとっくり聞いてくれるって意味だよね?ねえ」
と言い、何故か上木達三人と着物姿の男と江戸川の五人で和設えの喫茶処に行くことになった。
江戸川と男は兎も角、何故我々が…。
とは思ったが、上木が帰ろうと言う前に、江戸川が
「何突っ立てるのさ、行くよ」
と言い、上木が断る前に山辺が凄い笑顔で、
「はいっ、喜んで!!」
と言って仕舞ったので、なんか断れなくなってしまった。
何故さっき人殺しの場面を目撃したのに、笑顔でこんな明るい雰囲気を出せるのか。
さっきまでのシリアス展開は何処に行ったよ!
と真面目に思う。
だが上木が状況を嘆いているのはこのことではない。問題は、善哉を食べている江戸川、その量と食べ方である。
江戸川は今九杯目の善哉を食べている。____餅を残し、餡子だけを食べて。しかも、男の金で。
餡子のなくなった、餅のみ入った茶碗が、机上の江戸川の周りに無造作に置かれている。
上木は顔を隠しながら店から飛び出したくなった。
だが、山辺がこんなんだからそういうわけにもいかない。
因みに江戸川以外は誰も何も注文していない。というか、この状況で頼める人がいたのなら上木は尊敬する。
上木が相変わらず悶々としていると、男がしびれを切らしたかのように言った。
「おい、何故餅を残す」
ありがとうございます聞いてくれて。
それに江戸川はけろりと答えた。
「だって、甘くないんだもの」
じゃあ何故善哉を食べているんだ。それなら羊羹を食えよ!
上木は先程から心の中で突っ込みを入れているが、声にはならない。声に出してもけろりと簡潔な答えを言われて終わる気がするからだ。
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作者名:ミキノ・乃 | 作成日時:2020年6月19日 14時