【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ6)

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　玄関先でちょっとしたアクシデントがあったが、三人はボロ屋の中へ。沢子、景、地蔵の順にて進んで地下へと入った。
　このボロ屋、一見すると普通の平屋に見えるが実際は地下に広々とした空間が存在している。時に集会が開かれるゆえに、客間等が多くあるのだ。
　こちらだと案内してくれる沢子は、六畳程の部屋へと案内してくれた。

「こちらを御使用していただければ」
「堪忍な、沢子はん」
「いいえ。何かあったらわたくしでも景くんでも言ってくださいね」

　にこりと笑う沢子の美しい笑みに、ぽけーっと見惚れる地蔵。地蔵の目にはさながら沢子から後光が差し込んでいるように見ているに違いない。
　人間でも怪異でも、綺麗と思える存在は共通するようだ。

「ほんま、沢子はんべっぴんさんやな……」
「萌えキャラの八尺様だからな」
「そういう自分もしゅっとしてますやん、景はん」

　二人共180センチメートル超えの美男美女。絵になるとはこのことだろう。眼福眼福と地蔵は心の中で呟いた。
　沢子が仲介者としての仕事があるために部屋を退室し、景のみが部屋に残った。彼は畳に上に胡座をかく傍らで背負っていた古びたリュックを下ろした地蔵。中身は基本的に必需品というか、色々入っている。

「景はんはお仕事せんでええんですの？」
「今仕事中」
「そうなん？」

　目の前にある種困っている怪異がいる。ある種、それは彼にとって仕事である。
　じっと観察するかのように見てくる景を、少し不思議そうに小首を傾げた地蔵だが気にすることなく。とりあえずしばらくはボロ家にくる依頼をこなして食い凌ぐしかないだろう。別に食べなくても生きていけるが。

閑話休題。

　少し荷物の整理をした地蔵は景に何か依頼はないかと尋ねた。

「ん？あるはあるよ？」
「ほんまでっか？」

　内容を景が取り出したスマホの画面から読む地蔵。ちなみにこの地蔵、現代で生きる怪異の癖にスマホの一つも持っていない絶滅危惧種である。持っているとしてももう誰も使わないであろうポケベル。とうに電池は切れているが。

「んー。なんや難しそうやないですかー」
「なら沢子さんの方にも確認したらいいんじゃないか？」
「そうしますわ」

　すくりと立ち上がった地蔵はのしのしと重たい足音を立てて部屋を出ていく。その背を見送った景は、依頼を引き受けるというボロ家メンバーからの通知に返信をしていた。