【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ32)

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三廻目　４番ホームの待ち人(Ｄランク) ページ32

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「むむむ……」

　地蔵は悩んでいた。
　彼の両手それぞれに掴み、眺めているものは発売から永遠とどちら派かと争い競われているお菓子。

　──その名は"たけのこの村"と"きのこの丘"。

　クッキー生地のしっとりとした口当たりのたけのこの村に対し、きのこの丘のクラッカー生地はさくさくと軽やかな歯触り。どちらも美味しく、どちらも捨てがたかった。
　今更ながら地蔵が永遠と手元のたけのこの村かきのこの丘か悩んでいるここは、ボロ家からそれほど遠くないＹマート。その店内のお菓子売り場。
　以前、というより二週間程前にこなした依頼の報酬として沢子からもらったＹマートの割引券を使うために地蔵は訪れていた。
　店内は空調が整っており、酷く涼しい。寒がりの人にとっては寒いと感じるくらいの冷房の効き具合である。この照り付ける太陽から逃げるため、少しだけ涼むために店内に足を運ぶ人も少ないだろう。

「たけのこ……きのこ……いやでもたけのこ……せやけどきのこも……」

　古びたリュックサックを背負った地蔵はその場で座り込みそうな勢いで悩んでいた。端から見れば子供がどちらのお菓子を買おうかと必死に悩んでいる図に見える。そしてその通りである。子供、という部分が違うだけで大体が合っている。
　地蔵の中で今現在もたけのこ派ときのこ派が争っている。最初こそは口論であったが今は殴り合い蹴り合いの真っ只中。もう少しすれば銃火器が登場するかもしれない。それ程までに悩んでいた。
　なお、両方買うという考えは地蔵の中ではない。彼の所持金はせいぜいどこかの有名大学の創設者の絵柄の日本円札の金額に届くか届かないか、という程度。決して贅沢はできない。
　ならば買わなければいい、という声も出るだろうが関西人特有のもったいない精神のためその考えもなかった。ちなみに割引券の期限が今日までなのも理由である。

「きのこ……たけのこ……」

　もはやそれしか言わないようになってきている地蔵。かれこれ菓子売り場で十数分程悩み続けている。そろそろ店員もちらちらと地蔵の方へと視線を投げ掛け始めた。決断の時はすぐそこまで迫っていた。

「……どーちーらーにーしーよーおーかーな、てーんーのーほーとーけーさーまー」

　自身では決め兼ねるゆえ、もう運に任せた。ただ、これは運というよりどちらを先にしてどちらに後にするかによって選ぶものが自ずと決まってくるのだが、地蔵ははたしてそのことに気付いているのか。