検索窓
今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:5,018 hit

ページ ページ29



 ぐったりと倒れ伏している猫を抱え上げて、庇っていた。

「君が何者かわからないけど、この仔に何かしようとするのなら俺が黙っちゃいない」
「いやLはん。この少女があんさんの大好きなワタリはんです」
「は? いやだってワタリここにいるから、ジローちゃん」
「うーん、どう説明したらわかりやすいんやろ……」

 できるだけ素人にもわかりやすいように説明を噛み砕いて話す内容は、なぜ少女がワタリなのか、である。
 どういった方法でこうなったのかは地蔵自身も理解していないが、レイスの器とワタリの器が入れ替わっていた。おそらく入れ替わったのは数日前。Lがワタリが話しているところを聞いた時期だろう。
 なお、地蔵は知らない情報だがレイスは元々魔術師が何かしらの事件か事故かで肉体に戻れなくなった魂だ。何かしらの魔術を使った可能性が高い。
 あれやこれやと身振り手振りで説明すること少し。

「……ごめん。わからない」
「とりあえず、その少女がワタリはんだってことを理解してくれたらええんで」

 それさえも理解しているか怪しいところだが。
 そしてやはり理解していないLを再度説明をしようとしたところ、永遠と私の身体を返してとか細く呟いていた少女がLを見て悲しそうに微笑んだ。

「ずっと、ずっとお礼を言いたかった。あなたのお陰で私は生き永らえた。兄弟達は、姉妹達はあなたから名前という贈り物にとても喜んでいた。マツダも、モギも、アイザワも、イデも。四匹とも喜んでいた。ありがとう、本当にありがとう」

 そう言って、少女は言葉を紡いだ。まるで最後の別れかのように。
 軽く頭を下げた少女は踵を返しふわふわと宙を漂いながら廊下を進み、角の先へと消えていった。

「……」
「……自分が助言できるのは、後悔しない選択をしなされとしか言えまへん。あんさんがその猫でええというのなら自分は止めませんし、なんもとやかく言いません。ただ、最後に一つだけあんさんに言います」

 ほんまにそれでええんです?

「……ッ待って、待ってくれ。ワタリ! 待って」

 気絶した猫を抱えたLが消えた少女のあとを追う。うんうん、と頷いた地蔵。さてとと地蔵は背負っていたリュックサックからクリアファイルを取り出す。そこから札を一枚とり、ぺたりとLの部屋の前に貼り付けると壁と同化し始めた。

「よし、これでもあの幽霊もどきもしばらくは近寄ってけぇへんやろ」

次ページ→←前ページ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (16 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
設定タグ:路地裏の百物語 , 派生作品 , 市販書き , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:翔べないペンギン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/  
作成日時:2021年7月21日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。