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ぐったりと倒れ伏している猫を抱え上げて、庇っていた。
「君が何者かわからないけど、この仔に何かしようとするのなら俺が黙っちゃいない」
「いやLはん。この少女があんさんの大好きなワタリはんです」
「は? いやだってワタリここにいるから、ジローちゃん」
「うーん、どう説明したらわかりやすいんやろ……」
できるだけ素人にもわかりやすいように説明を噛み砕いて話す内容は、なぜ少女がワタリなのか、である。
どういった方法でこうなったのかは地蔵自身も理解していないが、レイスの器とワタリの器が入れ替わっていた。おそらく入れ替わったのは数日前。Lがワタリが話しているところを聞いた時期だろう。
なお、地蔵は知らない情報だがレイスは元々魔術師が何かしらの事件か事故かで肉体に戻れなくなった魂だ。何かしらの魔術を使った可能性が高い。
あれやこれやと身振り手振りで説明すること少し。
「……ごめん。わからない」
「とりあえず、その少女がワタリはんだってことを理解してくれたらええんで」
それさえも理解しているか怪しいところだが。
そしてやはり理解していないLを再度説明をしようとしたところ、永遠と私の身体を返してとか細く呟いていた少女がLを見て悲しそうに微笑んだ。
「ずっと、ずっとお礼を言いたかった。あなたのお陰で私は生き永らえた。兄弟達は、姉妹達はあなたから名前という贈り物にとても喜んでいた。マツダも、モギも、アイザワも、イデも。四匹とも喜んでいた。ありがとう、本当にありがとう」
そう言って、少女は言葉を紡いだ。まるで最後の別れかのように。
軽く頭を下げた少女は踵を返しふわふわと宙を漂いながら廊下を進み、角の先へと消えていった。
「……」
「……自分が助言できるのは、後悔しない選択をしなされとしか言えまへん。あんさんがその猫でええというのなら自分は止めませんし、なんもとやかく言いません。ただ、最後に一つだけあんさんに言います」
ほんまにそれでええんです?
「……ッ待って、待ってくれ。ワタリ! 待って」
気絶した猫を抱えたLが消えた少女のあとを追う。うんうん、と頷いた地蔵。さてとと地蔵は背負っていたリュックサックからクリアファイルを取り出す。そこから札を一枚とり、ぺたりとLの部屋の前に貼り付けると壁と同化し始めた。
「よし、これでもあの幽霊もどきもしばらくは近寄ってけぇへんやろ」
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作者名:翔べないペンギン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時:2021年7月21日 17時