【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ24)

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　はい、八道(やじ)で……あら、たたり地蔵さん。どうかされたのですか？ ……はい、はい。……なるほど、そうなのですね。わかりました。お気をつけてくださいね。何かありましたらいつでも御連絡ください。もしお力が必要ならばどなたかに御助力をお願いいたしますので。

　がちゃりと西洋風の受話器を置いた地蔵は小さく息を吐いた。そして足元で擦り寄っている振りをしているワタリを見てから、困ったような顔をしているＬを見た。

「ほんと、ごめんね。まさかワタリがここまでジローちゃんに懐くとは思わなくて……あれ、なんだろ、ちょっとしたジェラシーが……」
「いえ、気にせんといてください」

　実際は全てワタリの演技である。
　Ｌの前で猫を調べた振りをして、聞き間違えだった呈(てい)にしてから帰宅しようとしたところ、地蔵の進行方向を邪魔するようにワタリが立ち塞がる。踏まないように気をつけつつも歩くが叶わず。むしろずどん、と鈍い音を立ててフローリングに転んでしまった。なお、その転んだ部分は他のフローリングに比べたら明らかにへっこんでいるのだがそれはさておき。
　ワタリを抱え上げたＬだが爪を立てて地蔵の袈裟を引っ掴み、決して離れなかった。どれだけ引っ張ってもワタリは離れず。逆に地蔵の袈裟の方が破れそうになったところ、地蔵からお泊りさせてくれと提案したのだった。
　沢子に表面上の事情を説明して、外泊許可申請という名の途中報告を地蔵はしてのである。

「自分、よそ様の家にお泊まりとか初めてやからドキドキしますわ」
「俺も違う意味でドキドキだよ……。嫁が帰ってくるのがどうして明日なんだ……」

　見た目が子供とはいえ、見ず知らずの人物を泊めるのはいささか無用心だがそれは置いておいて。晩ご飯は何がいいかと尋ねるＬに、ならばと提案する地蔵。

「お好み焼き？そんなのでいいのジローちゃん」
「家庭によってそれぞれ具材や味付けがちゃうんですよ」

　なお、お好み焼きの発祥の地は広島県か大阪府だと思われていることが多いが実際は東京都である。と豆知識をここで記しておこう。
　ソファーに座り直している地蔵の膝の上にはワタリが我が物顔で座っており、毛繕いをしていた。嫉妬と羨望の眼差しをＬから貰うゆえに地蔵は苦笑いを一つ。こうしている間も主人のために懸命に演技している海外の怪異だが、主人に構ってやった方がいいと思う。地蔵はそう考えた。